食のグローバリゼーション 60

日本の温泉情緒とともに味わう冬の味覚の王様

~ 日本料理 城崎温泉 カニづくし 1 ~

日常の生活を離れ、旅に出るのは楽しいものだ。

都会のコンクリートばかりを眺める目に、自然の景観が安らぎを与える。

様々な文化施設に訪れると、価値観を変える契機となる。

それに加えて、訪れた土地でしか味わえない味覚に出会うのも旅の大きな楽しみに数えることができる。

冬になると旅行社や駅の構内に、冬の味覚のポスターが溢れる。

首都圏であれば北陸、関西圏であれば山陰地方へのカニ紀行だ。

頭の上にハサミをかざしたカニの姿が、延々と並ぶところもある。

他にも旬の味覚はあるはずだが、毎年カニが大きくクローズアップされる。

 

本州から北海道に向かう日本海の沿岸では、秋から春にかけて大量のカニが水揚げされる。

主な種類はズワイガニだが、地域ごとにブランド名を携えている。

山陰地方では松葉ガニと呼ばれていたかと思うと、京都付近では津居山ガニ、間人ガニ、福井県では越前ガニ、石川県では加賀ガニと呼び名が変わる。

冬の日本海沿岸地方では、どこでもズワイガニの姿を見かけることができる。

全てのブランドを味わい尽くそうとすると、1週間や2週間では不可能だろう。

関西地方からであれば、北陸へも山陰へも比較的短時間で訪れることができる。

山陰地方の東の端に位置する城崎温泉は最も手軽な旅行先だ。

城崎温泉は、瀬戸内海と日本海の2つの海に接する兵庫県の豊岡市にある温泉だ。

平安時代には存在が知られ、以来1300年にわたる歴史をもつ。

コウノトリが温泉で傷を癒していたという伝説まで伝わっている。

 

温泉街の中心には大谿川が流れ、その両岸には柳が並木を作り、豊かな風情を漂わせている。

高い知名度がある上に、京阪神地方からの便もよい温泉地であるにも拘わらず、歓楽色が少なく昔ながらの閑静な情緒が溢れている。

何もかもが近代的になり、各地の温泉街から温泉情緒が次々に失われていく中にあって、城崎温泉では物静かな雰囲気な情緒を維持し続けている。

 

明治時代以降には数々の文人墨客に愛され、志賀直哉はこの地で『城の崎にて』を執筆し、有島武郎なども度々訪れている。

 

幕末には新選組に追われた桂小五郎が、京の都から城崎温泉に逃げてきたこともある。

 

城崎温泉での正装は、浴衣を身に纏い下駄をつっかけた姿と言われる。

旅路の一夜を過ごすだけの観光客も大半が、温泉街の正装でそぞろ歩く。

昼下がりから深夜、早朝の時間帯には、下駄に浴衣の人々が右に左に往来する。

城崎温泉の最大の特徴は、旅館の中の内湯ではなく、温泉街に点在する外湯で温泉の湯に浸かることだ。

城崎の温泉街には7つの外湯があり、これらをはしごしてまわるわけだ。

一夜で全ての外湯を制覇すると、体はふやけてしまうだろう。

それでも、観光客はできるだけ数多くの外湯を体験しようと温泉街を移動するのだ。

外湯の中の一つ「一の湯」は、江戸時代からの歴史をもつ筆頭格の存在だ。

下駄の音を鳴らしながら大谿川に沿って歩けば、日本の情緒、温泉の情緒が全身を満たしてくれる。

そこで粉雪など舞おうものなら、先の旅程を変えて暫く城崎に滞在したくなってしまう。

薄らと雪の化粧をする旅館の屋根の色と柳の葉の緑が、しっとりと落ち着いた色彩のバランスをもち、目を優しく包んでくれる。

城崎温泉は円山川が日本海に注ぎ込む河口に広がる温泉地であるため、海の幸に恵まれる。

冬の時期には、カニ紀行の代表的スポットとなっている。

外湯の温泉巡りを終えて旅館に戻ると、カニづくしの料理が待っていてくれる。

冬の城崎温泉では、温泉の湯と、温泉情緒、旬の味覚の全てを楽しむことができる。

 

写真(食60-2)

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