食のグローバリゼーション 61

調理方法を変えて味わうカニ三昧の夕食

~ 日本料理 城崎温泉 カニづくし 2 ~

訪れた土地でしか味わえない味覚を体験することは、旅の大きな楽しみの一つだ。その中でも旬の食材が街に溢れる季節が、最高のタイミングと言えるだろう。

秋から春にかけての時期には、日本海沿岸の街には大量のズワイガニが水揚げされる。

晩秋ともなると旅行社の店先や駅の構内には、「カニ紀行」の文字が躍るようになる。

グルメな旅は数多く企画されているが、冬の海の幸であるカニには別格の地位が与えられているようだ。

 

「カニ紀行」の目的地は、北陸地方から山陰地方まで広範囲に及ぶ。

旅の最大の目的は旬の味覚なのだが、このエリアには各地で温泉が湧き出している。

日本海の新鮮な味覚と温泉情緒が、日本人の旅心を大きくくすぐるのだ。

 

城崎温泉は、山陰地方の日本海の間近に落ち着いた風情の温泉街を作っている。

平安時代から知られる歴史の古い温泉には、関西地方からは手軽に行くことができるため、一年中数多くの観光客で賑わう。

中でも松葉ガニの季節には、浴衣を着た人の姿が温泉街に溢れる。

城崎温泉の大きな特徴は温泉街には7つの外湯があることだ。

宿泊客は旅館の内湯ではなく外湯を巡り歩く。

大谿川がゆっくりと流れる両岸の柳並木を浴衣姿の人がそぞろ歩く光景は、日本にしかない温泉情緒が漲る。

 

下駄の音を響かせながら外湯巡りをした後のお楽しみは夕食だ。

温泉旅館では一夜を過ごす客室に料理が配膳される。

これも日本ならではのサービスと言える。

海外のホテルや日本のビジネス・ホテルなどでは客室で食事をすることはまずない。

食事をするときには、部屋を出てホテルの中か街のレストランに出かけることが多い。

たとえ一夜とは言っても、旅館の客室には我が家の雰囲気が漂う。

我が家の居間となった客室に、旅館の料理人が腕を奮った料理が並ぶのは有難いものだ。

他人の眼を気にすることもなく、ゆっくりと落ち着いて食事を楽しむことができる。

しかも、テーブルには、焼く、煮る、炊くなど全ての調理方法を使った料理が、バランスよく並ぶのだ。

バラエティー豊富な料理で、テーブルが一杯となる。

忙しい日常生活を送る自宅では、到底実現できない食卓だ。

「カニ紀行」と銘打つ旅となれば、食卓はカニづくしだ。

生の刺身から、茹でガニ、焼きガニ、カニちり。

文字通り「カニづくし」だ。

一度の食事では様々な食材を食べたいと思うのが通常のことだが、「カニ紀行」では思う存分カニを味わうのが目的の旅行だ。

これだけの料理が並べば、申し分ないと言えるだろう。

カニを食べた後にカニを食べ、またその後にもカニを食べる。

刺身には醤油、茹でガニには酢、焼きガニにはレモン汁などの調味料が、味わいに小さな変化を加えてくれる。

そしてカニちりには、他の食材にカニのエキスが染み込む。正しく「カニ三昧」だ。

それにしても、調理方法は違うとは言え、一つの食材ばかりを食べていると飽きがきてしまいそうだ。

肉料理ばかりだと、きっと途中で胃がもたれてしまうことだろう。

ところが、カニであれば、食材そのものがあっさりとして、クセのない味わいをもっている。

仄かな甘みを感じながら、「カニづくし」を堪能することができる。

宴会などにカニ料理が登場すると、盛り上がるはずの会場がひっそりと静まりかえることがある。

カニを手にすると、食卓を囲む人の視線は手元に集中してしまう。

甲羅から身を穿り出す表情は真剣そのものだ。

甲羅から完全に身を剥がすことができると、妙な達成感を感じることすらある。

料理を口に運ぶ前の定番の作業が、食材の味をさらに引き立てているのかもしれない。

 

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