食のグローバリゼーション 62

ペットとして飼われた愛らしい姿で、皿の上に乗るテンジクネズミ

~ ペルー料理 クイ・チャクタード ~

日本の数多くの家庭では、ペットを家族の一員のように飼っている。

ペットの可愛い仕草を見ていると心が和み癒されるものだ。

2013年の統計では、日本の家庭の16.8%で犬を飼っており、猫になると10.2%となる。

4世帯に1世帯は、犬か猫を飼っているわけだ。

ペットの代表格は犬、猫ではあるが、ペットショップなどを覗くとペット用の動物の種類は年々増加傾向にある。

20年近く前には、ネズミ類に属するハムスターが大きな話題を呼んだ。

柵の中に回転車を設置すれば、ハムスターは前足と後ろ足を器用に使って車を回す。

微笑ましい姿は、飽きることがなく眺めることができる。

 

ネズミ類をペットとする家庭は日本ではまだ多くはないだろうが、ペルーでは広く飼育されている。

アンデス山脈が南北に繋がるペルーでは、クスコなどの高地に行くと市場やレストランの中庭や駐車場の隅に、小さな柵が作られているのをよく見かける。

柵の中ではモルモットのような動物が小さな口を素早く動かし、もぐもぐと緑の葉を食べている。

その動物は、クイと呼ばれるテンジクネズミだ。

日本名でテンジクネズミとは言っても、天竺のインドではなく南アメリカに広く生息している。

「クイ、クイ、クイ」と小さな声で鳴くことから、クイと呼ばれるようになった。

約30センチの体は柔らかな毛でふさふさと覆わる上に小さくて丸い耳、つぶらな瞳をもつ姿は極めて愛らしい。

初めて柵の中のクイを見れば、ペットとして飼っていることを信じて疑う余地はないだろう。

ところが、ペルーの人々がクイに注ぐ眼差しは少し違う。

子どもたちならば「かわいい~」と声を上げるのだが、大人たちは「美味しそうだな」となり、料理人になると「このクイが食べごろだ」となる。

愛らしい小動物は、ペットでもあり食用でもあるのだ。

アンデスの高地では寒暖の差が激しい上に気圧が低いため、生存できる動物の種類は乏しい。

クイは貴重な動物性のタンパク源となっているのだ。

アルパカもファミリー感覚で一緒に暮らしながらも、食用とされることもある。

見慣れない動物の食べ頃など判断できるはずはないが、きっと丸々と太ったクイが選ばれるのだろう。

調理場に運ばれたクイは、熱湯につけて毛をはぎ取られた後、焼いたり、揚げたりする。

クイ・チャクタードは、腹を開きそこに数種類のハーブを詰め込み、オーブンでこんがりと焼きあげる。

前足と後足を左右に大きく開き、皿からはみ出す姿から、かなりのボリュームに見えるが、意外と食べることができる肉の量は多くはない。

フォークで胴体を抑えながら、ナイフで身を骨から削ぎ取っていく。

慣れない手つきで細切れになってしまった肉は、意外と固く魚を食べるようにはいかない。

アンデスの高地に暮すネズミの味わいは、チキンに近いと言えるかもしれないが、脂肪分は少ない。

うつ伏せに寝かされたクイ・チャクタードでも結構リアルなのだが、クイ・アル・オルノになると、料理方法は同じでも食卓には、皿の上に4本の足で直立した姿で運ばれてくる。

口の先には真白で健康な歯まで並んでおり、食べられるのではなく、これから食事を始めてもおかしくない。

ニンジンなどの野菜を切って耳や尻尾を復元すると、料理というよりは博物館の展示品に見えてくる。

クイは地元の特産を活かしたご当地料理となるが、日常的な食材ではない。

何かの記念日やパーティーなど、特別な機会のメイン料理として人気があるのだ。

気候や習慣の違いによって、その土地ならではの食文化が存在するわけだ。

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