考古学者のパッチワークが偲ばれる鉄格子の先に広がるパンパの光景
~ ペルー ナスカの地上絵 ミラドール ~
2012年5月22日に、東京に新しい観光スポットが誕生した。
1958年から電波塔として活用された東京タワーの役割を引き継ぐために、高さ634メートルの日本一高い東京スカイツリーが建てられた。
青空に向かって真っすぐ立つ塔からは、地上デジタル放送の電波が飛ばされる。
タワーの地上約450メートルの位置には展望台が設置されており、ここからの眺めは絶景だ。
日本の首都の姿を隅々が、360度のパノラマで視界に広がる。
高い所から風景を眺めると、目に入るエリアを征服したかのような優越感に浸ることができる。
ナスカの地上絵が描かれるアンデス山脈の麓の大地に、数百メートル級の展望台があれば、パンパに描かれる図形を一所で見ることができるのではないだろうか。
しかし、巨大な建築物を作ろうとすると、自然が破壊されるばかりか、地上絵の一つや二つが失われてしまうことになりかねない。
現代に生きる人々は、パンパの景観を損ねることなく、次の世代に古代ナスカのアーティスト達の作品を受け継ぐ使命があるだろう。
ナスカの地上絵の価値を広く世界に知らしめたのは、ドイツ人数学者、考古学者のマリア・ライヒェだ。
1903年にドレスデンに産まれながら29歳でペルーに渡り、1946年頃からはナスカの地上絵の研究に没頭した。
数学的な測量方法を巧みに利用し、ナスカ一帯の地図の作成を試みている。
彼女は広大な敷地に描かれる地上絵を見るために、何度もペルー空軍の協力を得て上空から夥しい数の写真を撮影した。
自宅の机や壁、床には、写真が埋め尽くされ、小さな部屋の中にナスカの大地が取り込まれたことだろう。
マリア・ライヒェは航空写真を撮るばかりでなく、厳しい熱帯の太陽の陽射しを遮るもののない乾燥しきった大地に、観測用のタワーを立てた。
ミラドールと呼ばれる地上絵観察のための塔は、地上絵が描かれるパンパの北西から南東を貫くパン・アメリカン・ハイウエイの道路沿いに位置する。
ナスカのパンパのほぼ中央に観測塔を設置し、彼女は毎日のように登ったのだ。
赤い鉄骨によって階段と床が構成されただけのシンプルな構造は、強風が吹けば倒れてしまいそうだ。
でも、高さ約20メートルの展望台からは視界を遮るものは何もない。
地上絵の観察の目的は、充分満足している。
双眼鏡を通して360度のパロラマを観察すれば、パンパに広がる数々の地上絵の姿を確認することができることだろう。
マリア・ライヒェはミラドールから目を凝らして観測を続け、数多くの地上絵を発見したのだ。
数十年前に建てられた簡素な構造のタワーは、今でも当時と変わらぬ姿でパンパの大地に直立している。
ナスカを訪れた人ならば、必ず訪れるスポットの一つとなっている。
展望台からは、地上絵にダメージを与えることなくアート作品を鑑賞することができる。
さらに、セスナ機による上空からの遊覧フライトでは感じることができない、地上絵が本来もっている土の香りを感じ取ることができる。
タワーの真下の土壌には2の地上絵が刻まれている。
北側に海草、南側に手の絵柄が、文字通り原寸大で見ることができる。
展望台の鉄格子の隙間からパンパを眺めれば、無限大のキャンバスに乾燥した大地と澄み渡る青空が描かれる。
位置を変えて格子越しにパンパを眺めると、ナスカの光景がタイル状に整列する。
マリア・ライヒェは自らが撮影した写真をパッチワークのように並べたことだろう。
写真を一枚ずつ丁寧に繋ぐマリア・ライヒェの姿が偲ばれてくる。