食のグローバリゼーション 63

全ての自由を奪われた刑務所の囚人からも奪えなかった美食の習慣

~ フランス料理 ラタトゥイユ ~

フランス料理と聞いただけで、思わず生唾を飲み込んでしまう人も数多くいることだろう。

世界各国の名物料理を食べ歩いた食通も、フレンチには格別の番付を準備する。

ありとあらゆる農作物、畜産物、乳製品、魚介類を、腕に覚えを持つシェフが工夫を凝らして料理する。

皿に盛られた料理には、シュフの個性と創意が凝縮される。

フランスでは、料理が一つの芸術のジャンルとしての地位を確立している。

フランス人は、美食を人生の大きな喜びとして愉しみ、味覚のオリジナリティーを積極的に追及しているのだ。

フランス料理に磨きをかけ発展させたのは、中世のヨーロッパで大きな権力をもったブルボン王朝だ。

毎日のように宮殿で開催されるパーティーには、豪華な料理が必需品となった。

宮廷の台所を預かる料理人は、王家の人々や海外からの賓客を、食を通して誠心誠意もてなすことが使命となる。

美味しい料理を味わえば、会話も自然とはずんでくることだろう。

外交的に対立する外国からの来訪者の心を、舌から解きほぐす場面もあったのではないだろうか。

フランス料理の大きな特徴は、料理ごとに皿を分け、一品ずつ順番にテーブルに運ばれてくる。

定食文化に慣れた日本人には、目の前にはいつも一種類だけの料理しかないテーブルは、何となく心もとない。

おまけにフランス料理には様々なマナーがあり、初めてのコース料理の際には、結構緊張してしまうものだ。

フランス料理というと、どうしても豪華な料理がイメージされてしまうものだが、一般の家庭の食卓にも宮廷のような料理が並んでいるかというとそうではない。

食事にばかりお金をかけていては、途端に家計は破綻してしまう。家庭には身近な食材を活かし、家族の好みに合わせて調理している。

フランスは西ヨーロッパでは最も広い国土をもった国だ。

地方によって気候も違えば特産物も異なる。

日本でも北海道と九州では、全く異なった食文化が育っている。

フランスでも、プロヴァンス、バスク、アルザス、ブルターニュ、オーヴェルニュ、ブルゴーニュ、ロワールの各々の地方に伝統の家庭料理がある。

中でもフランスの国土の南東端に位置するプロヴァンス地方は、地中海に面し、一年中温暖な気候に恵まれる。南の地中海からは豊富な魚貝類が水揚げされる。

これに地中海沿岸の特産物のオリーブが巧みに利用されて多種多様な地方料理を産み出した。

 

ラタトゥイユは、プロヴァンス地方でもイタリア国境近くのコート・ダジュールに位置するニースで生まれた夏野菜の煮込み料理だ。

オリーブオイルにみじん切りにしたニンニクを入れて香りがつける。

これに、ナス・ズッキーニ、タマネギ、ピーマンなどの野菜を入れ、軽く炒める。

さらにトマトを加え、オレガノ、バジル、タイムなどの香草を入れ、最初は強火で、沸騰したら弱火で約15分間煮込む。

最後に塩、コショーで味を整えるとラタトゥイユが完成する。好みに応じてワインを加えることもあるが、どこの家庭でもできる簡単レシピだ。

作りたての暖かい状態で食べることもあるが、冷やして食べても味わいは変わらない。

そのせいか、軍隊や刑務所で頻繁に出される料理となったため、ラタトュイユが日本語の「臭い飯」と同じ意味をもつ言葉として使われることもあった。

プロヴァンス地方の人々にとっては不本意なことかもしれないが、冷えても美味しいということを証明したのかもしれない。

少し視線を変えると、美食の国フランスでは刑務所で暮らす囚人からも、食べる楽しみだけは奪わなかったのかもしれない。

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