バイノーラル録音という言葉を聞いたことがあるだろうか……一言で言えば”立体音響”のことである。
特殊な音響システムを使い、人間が生音を聴くような感覚に陥る、それはあたかもその場に居合わせたかのような臨場感溢れるデバイスである。
例えば闇夜に出現するヘリコプター、安眠を妨害され頭上を通過していくヘリコプターに心地よいと思う人は少ないだろう、だが姿は見えずとも飛行経路がどの辺りを飛んでいるかは感知できる。
人はあらゆる場面で様々な音波に接している、騒音、雑音、快音等々、防音装置でもない限り人は音と常に向き合い生活している。
その音波はどこで感じるか……何を今更当たり前のことを、と言われるかも知れないが実はダイレクトに感知するのは耳ではない。
我々はエンジン音を直に耳で聴いているのではなく、鼓膜に達するまでに頭部や外耳などによって複雑にゆがめられ、身体の部位を反射しながら感知するのだという。
つまり音源の方向舵を測る大本は脳内にあるということらしい。
直接、耳に情報(音)は流れてくるものだと思っていたが、身体がいかに複雑な構造になっているかあらためて驚くばかりであった。
上述したバイノーラル録音の方法とは、いわゆるモノラル・ステレオと同等の録音形式で、イヤフォン型の小型マイクを両耳に装着し録音する装置を言う。
もともとバイノーラル録音には、ダミーヘッドマイク(人間の頭をかたどった装置に組み込まれたマイクで、鼓膜に届く音波の状態を頭蓋骨と聴覚器の擬似構造でレコーディングしていくのである)を使用する必要があった、しかし数百万円もするため一般人には手が出ない。
人形の上半身すべてがマイクとなる構造上持ち運びも難儀で、録音もおいそれとは行かない、プロは耳の位置にマイクロフォンを付けた頭の形をしたダミーヘッドを使っているが。
そこで登場したのが簡易バージョンのリアルヘッドマイクであった。
その簡易リアルヘッドマイクを使った、ラジオ番組を数年前に作ったことがあった。
リスナーたちにヘッドフォンで聴かないと、立体音響効果は得られないと何度も連呼し訴えた。
果たして音の奥行きを感じてもらえたかどうか……
しかしまだ話は終わらない、バイノーラルの上を行くものがある、ホロフォニクスだ。
ホロフォニクスとは、立体音響収録フォーマットの究極と言えるもので、音の上下移動も含め音場の完全再現を可能にしたものである。
神経生理学者 Hugo Zuccarelli ヒューゴ・ズッカレリが独自開発した”バイノーラル”を更に正確に再現できるシステム。
具体的には、ダミーヘッドマイクと録音機の間にズッカレリが開発した機器を挟む、つまり、”集音したバイノーラル音声に対して、何らかの処理をリアルタイムで施している”と考えられる。
ちなみにその機器は、世界に2~3台しかないのだ。
残念なことに、ホロフォニクスについての原理が公表されていないため開発することは不可能、可能ならとっくにスタンダードなフォーマットになっているはず。
いや、サラウンドはスピーカー向け、バイノーラルやホロフォニクスはヘッドフォン向けと用途が異なるのでそれは言い過ぎかもしれない。
ホロフォニクスの開発から30年以上経っても解明されていない、今後も公になることは難しいだろう。
ヒューゴ・ズッカレリについての面白い記事を見つけた。
“ヒューゴ・ズッカレリは、その使用権を第三者に許可しなかった。
彼曰く、ホロフォニクスの秘密は、今の時代にとって極めて唐突なテクノロジーとして受け取られ、単に音の知覚を更新した技術に止まらず、様々なテクノロジーを改変してしまう可能性に発展するのだという。
そして、それが一挙に進めば、あらゆるシステムが急速な変化の渦に巻き込まれてしまい、それがもたらす変化の構造はあらゆる側面においてマイナスの要素になってしまうと。(参考:CD”アルデバラン”ライナーノーツ)”
しかしそんな話をよそにホロフォニクスは、ピンク・フロイドやマイケル・ジャクソンなどが効果音として使用したという、第三者には許可しないはずでは……さぞやいろいろあるのだろう。
さらにジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグが使用を願い出たという話もあるそうだ、その後どうなったのかは分からないが、ホロフォニクス立体音響収録の威力は相当なものであると想像がつく。
ホロフォニクスはバイノーラルとは違い、スピーカーでの感知も可能だそうだ、下記のアドレスから試してみては如何だろうか。
バイノーラル(サンプル)
https://www.youtube.com/watch?v=h564qjkJ-5I&feature=player_embedded#at=95
ホロフォニクス(サンプル)
http://www.acousticintegrity.com/acousticintegrity/Holophonics.html