LIXILギャラリーの現代美術個展ギャラリーで、8月23日まで「石内都展 ―幼き衣へ―」が開催されています。
背守り子どもの魔よけ展、というタイトル。
着物を日常着にしていた昭和初期に作られた「背守り」という母親が子供の成長を願い、着物の背中に飾り縫いなどを施した着物などを撮影した作品が並んでいます。
さて、この背守りなのですが、どことなく宗教的な意味合いもありそうな、温かくも何か神がかった雰囲気を感じることができます。
贅沢な素材などを使ったり、刺繍を施したりと、当時の母親が子供によせる愛情を強く感じる事ができます。
素晴らしいな…と、思う事の一方で、こういった願いの文化も減ってきていると少し胸も痛くなります。
七五三など、子供の成長を祝う儀式などは通常通り行われていますし、恐らく地方によっては、まだまだ昔の慣習が残っているところもあるでしょう。
しかし、こういった個人の家庭レベルで行う願いの行為ってのは、皆無となっているのです。
時代の流れも当然あるとは思うのですが、それだけ現代人に余裕が無くなってしまった…と、いうこともあるでしょう。
とはいえ、昔は豊かな時代だった…と、嘆く人もいますが、実際には昔の方が家庭としては貧しかったという可能性だってあります。
貧しいながらに、子供の存在が嬉しいということで、家族という絆をより感じられる時代だったからこその、豊かさですよね。
こういった繊細な刺繍を施す技術を習得する時間や仕上げる手間。
昔だからこそ、思いを込めて作ることができたのでしょう。
こんな話をするのも虚しいのですが、自分を含め、現代の方は当たり前のように情報社会の中にいます。
暇があればスマートフォンをSNSやインターネット、ゲームなどをして、自分の立場を見失っています。
最悪、もし背守りを作るとしたら、ネットで作り方を調べることができてしまいますよね。
何となく、味気無いのですが、恐らく多くの方はそういった流れとなるでしょう。
さらに、共働きをしる必要の無い家庭の場合、日々の生活で手一杯であったり、逆に子供をどれだけ優秀に育てようか血眼になるって上京です。
生まれてきてありがたい、健やかに成長してほしいというイメージなど、どこも無いかもしれません。
さらに、悲しいのが、背守りを作ろうの会、のようにワークショップを開き、ひとつのファッションとして携わる場合のあります。
知る機会としてはとても素晴らしいと思いますが、何かそういった感覚とは次元が違うような気もしてしまうのです。
今回の展示会で感じる事は、とにかく“愛情”の一言です。
大切な事は、知る事でもありますが、背守りを作る作らないというより、そういった愛情を持つ事の大切さのような気がするのです。
さて、話を戻しますが、今回展示をしている写真家の石内都氏は、今年3月にハッセルブラッド国際写真賞を受賞した話題の写真家です。
「Mother’s-未来への刻印」、「ひろしま」、「絹の夢」など、遺品や布で記憶を綴った過去のアーカイブ作品も展示されています。
こういった過去の遺品などから母親や家族、そして生きる事と愛情の関わりを思い返す機会というのも、そうそうありません。
実際、冠婚葬祭ぐらいの時にしか家族と顔を合わさないなどという方は、個展に出掛けてみる事をオススメします。
自分が、どれだけ愛情を注がれて生きているのか、このタイミングで知る事が、何かのメッセージかもしれません。