あまり陶芸とか蒔絵に興味の無い方は多いと思います。
日本が誇る素晴らしい伝統工芸、そして芸術でありながらも、やはり西洋美術や現代美術に比べれば地味感は否めません。
しかし、そのひとつひとつの作品を見ると、美しさは見せかけだけでない、本当の美しさという事が分かってきます。
焼物となると、パッと見だけでは理解できないかもしれませんが、蒔絵であれば分かるという方は多いかもしれません。
漆器の表面に絵や文様、または文字などが描かれる技法です。
よく、漆器の茶碗や箱などに金色文様などが刻まれているアレです。
現代では、デジタルで出来てしまうようですが、当然人の手で生み出される蒔絵は風合いも品格も桁外れに違います。
一緒にはできません。
また、こういった蒔絵には夜光貝やアワビ貝などをはめ込んだりします。
独特の七色に光るモチーフなどを見た事もあると思います。
しかし、この蒔絵がどれだけ凄いのか…。
ちょっと、想像だけでは分からない可能性もあるので、蒔絵師として世界的にも名を知られる寺井直次について紹介しましょう。
まず、いやらしい話ですが、この寺井直次の作品って一体どの程度の価格がするのだろう…と、思いませんか?寺井直次自体、蒔絵師として無形文化遺産、つまり人間国宝という凄い人物です。
その方が作り上げた蒔絵の器。
何と、現在インターネットで販売されているものでも、1500000万円ほどです。
落ち着いてください。
0が多過ぎて分からなかったかもしれませんが、1千5000万円です。
そして、これ以上のものもあるのです。
当然ながら、価格がつける事ができない作品だって数多くありますよ。
芸術を超えて、神への献上物じゃないのか?と、思わせるほどですね。
しかし、それだけの価値があるのです。
卵殻の並べ方など、今までに無い斬新な方法で色を出したり、アルミニウムを電解処理し素地を作る金胎漆器という、現代的な方法を使う技術も開発したそうです。
数百年と続く漆芸の世界を、自ら力で塗り替えて行くというのは、もう並み大抵の人物で無いことがこの時点で分かりますよね。
では、いきなり天才的な漆芸家系に生まれた超サラブレットなのか?と、いうとそうでは無く、1912年に金物屋も営む鍛冶職人の家に生まれたそうです。
鍛冶職人というのが何となく格好いいですが、今であればこんな古くさい仕事や嫌だ!と、いう若者がいてもおかしくない仕事です。
別に裕福な訳では無かったでしょう。
そして、小学校六年生の時に漆芸に興味を抱き、そのまま何となくやってみたい!と、いう気持ちでこの道に進んだというのです。
しかし、やはり勉強熱心だった性格がこういった結果に繋がったかもしれません。
東京美術学校を卒業した後、理化学研究所でアルミニウムを使った金胎漆器を研究し、 理化学研究所静岡工場へ工芸部長になったそうです。
また、母校で漆工科の主任をしたりしていたようです。
その後、漆芸を続けていくことで、数々の賞を受賞するのですが、加賀蒔絵で石川県指定無形文化財保持者になってからが凄いんですよね。
さらに、成田空港の貴賓室に納める「漆額 極光」を制作し、同じ年に皇后美智子が使用する「松喰鶴蒔絵御懐紙箱」を制作しています。
ついに、ここまで来ているのです。
普通、そこまで素晴らしい人物になれば現役を退いても良いでしょうし、遊んで暮らしても良いでしょう。
その後、精力的に活動して漆工を広めるために尽力し数々の展覧会なども開催し続けたんです。
いや…頭が下がりますよね。
もし、蒔絵に興味を示したかたは、寺井直次の作品から研究してみるのはどうでしょうか?一気に、蒔絵の虜になるかもしれませんよ!