アンデスの大地に刻まれるアース・アート 19

ルネ・マグリットのシュールな表現様式にも通ずるパラカスの民の美意識

~ ペルー パルパの地上絵 3 ~

アンデスの山の麓に広がるペルーの大地には夥しい数のアート作品が刻まれる。

ナスカ川の北側からインヘニオ川の流域にいたる乾燥しきったパンパに描かれたアート作品は、ナスカの地上絵として広く世界に知られている。

ナスカのパンパには古代ナスカの人々の美意識が凝縮されている。

ところが、インヘニオ川をわたりさらに北に向かうエリアにも、アーティストのキャンバスは広がっているのだ。

 

パルパと呼ばれるエリアには、ナスカの地上絵とは少し異なった様式の地上絵が描かれている。

ナスカの地上絵が描かれた時代から遡ること数百年のパラカスの民のアート作品だ。

1塔のみではあるが観測用のミラドールが、パルパのエリアに建設されている。

それも、パルパの地上絵を見るには絶好の位置だ。

ミラドールから視界に入る小高い山々の山肌には幾つもの地上絵を見ることができる。

右を見れば4人のファミリーのような絵が描かれている。

複数の人物像が一つの区画に描かれているのは、ナスカパルパの全域の中でも極めて珍しい。

 

家族愛を感じさせる地上絵から左側に視線を移すと、美術館の展示壁のように、数々の作品を捉えることができる。

ミラドールのすぐ左手には、4人家族の父親にも見える人物像が再度描かれている。

大きな目を見開き、頭部に冠を被り、光を四方八方に発する姿は、パラカスのアーティストが好んで描くモチーフなのだろうか。

太陽の化身すらイメージすることができ、全体的には威厳に満ち溢れているが、表情の中には微笑がこぼれ出ているようで、人懐っこい親しみを感じることもできる。

写真(アンデス19-2)

さらに左の方向に目をやると、少しダンディーな人物が登場する。

山高帽を被ってどこかへ旅立とうとしているのだろうか。

頭の上のフェドーラは、ボルサリーノ製でもないだろうが、シックなセンスが漲っている。

写真(アンデス19-3)

パルパ地域には、一年中厳しい熱帯の陽射しが照りつける。

古くから帽子を着用する習慣があったと考えることに無理はない。

スリムな体つきに長い足の人物は、レストランの厨房で料理をするシェフにも見えるが、個人的にはルネ・マグリットが思い起こされてしまう。

マグリットは、20世紀に産まれたシュールレアリスムに基づいて創作を行った作家の代表格だ。

山高帽を被り、コートを身に纏う姿は、彼の作品の貴重なモチーフとなっている。

ヨーロッパ社会においては、紳士であることを主張するコスチュームだ。

パルパでは外套を身に着ける習慣はなかったであろう。[

酷暑地域では重ね着など必要ないはずだ。

 

それにしても、紀元前800年頃にパルパに移り住んだパラカスの民の絵画技法に、20世紀の表現法を見出すことができるのは意外なことでもある。

現代の作家が、パルパの地上絵に織り込まれる要素の中から、現代的視点で抽出できる技法は数限りなくありそうだ。

小粋な人物の横には、羽根を大きく広げる鳥が描かれている。

地上から空高く舞い上がり、大空を自由に飛び回る鳥は、いつの時代も人間にとって憧れの存在だ。

パルパ地域だけではなくナスカでも、数種類の鳥がモチーフとなっている。

人間が右手を差し伸べた先に鳥の頭が描かれ、パラカスの民が鳥と密接な関係をもちながら生活していたことが想像される。

この鳥のイメージもマグリットと重なり合う部分がなくもない。

美的感性は時代を超越して磨かれていくものだ。

パルパの地上絵の表現様式は、ナスカに受け継がれ、さらに20世紀の時代にシュールレアリスムの表現を産み出したというのは飛躍し過ぎだろうか。

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