食のグローバリゼーション 72

 

 

メカジキの白身を薄く延ばして様々な食材を包み込んだロール

~ イタリア料理 インヴォルティーニ・ディ・ペッセ・スパーダ ~

 

四方を海に囲まれる島国の日本は、種類豊富な水産物を近海や遠洋に求めている。

漁港を漕ぎ出した漁船は、魚群を見つけて大量の魚類を捕獲する。

海の中で生活する魚たちにとって、人間は最大の天敵と言えるかもしれない。海の上では、人間と魚が攻防を繰り返すことも珍しくはないだろう。

食うか食われるかの戦いだ。

場合によっては、小さな魚が船に体当たりで挑むことすらある。

 

世界中の海に広く分布するカジキ類は、しばしば船と衝突事故を起こすようだ。

イギリスの軍艦が気性の荒いメカジキの攻撃を受けて沈没したという実しやかな逸話がある。

船の底にメカジキの吻が突き刺さっていたという。

戦闘能力と防衛機構を最大限に備えた軍船が、魚の一刺しで撃沈するようなことが本当にあるのかは疑問だが、

確かにメカジキの頭部には長い吻あり、サメにも匹敵するような攻撃力をもっている。

 

実際にメカジキは、吻を振り回すことによって獲物を打ちのめし、気絶して体の自由がきかなくなった魚を捕食する。

逆に、サメなどの大型の魚に襲われた場合は、吻を使って身を守る。成魚の吻であれば、一突きで巨大な敵にも致命傷を充分与えることができる。

イタリアでは「ペッセ・スパーダ」と呼ばれるカジキの和名は、吻が船の舵をとる硬い木板の舵木を突き通すことから、舵木通しと呼ばれていたことに由来する。

 

メカジキは日本では刺身の他に照り焼きや、ステーキにして食べられる。仄かにピンク色がかった白色の身は、あっさりとした味わいをもつ。

相模湾などの日本近海ばかりでなく、地中海の沿岸地域でも漁獲され食材として利用されている。

 

イタリア本土のカラブリア半島と、メッシーナ海峡を隔てて接するシチリア島のメッシーナの漁港でも、メカジキがどっさりと水揚げされる。

漁船の中央部に設けられた20メートルを超える見張り台からメカジキの姿を探し当て、船首から突き出した台の先端から銛を打ち込んで捕獲する珍しい漁法がとられることもある。

 

地中海でも有数の漁場で漁獲されたメカジキは、腕自慢のイタリア人シェフによって料理される。

ソテーして様々なソースをかけたり、パスタに入れて食べたりするばかりでなく、メカジキの身を薄く切って、ロール状の料理に仕上げることもある。

 

インヴォルティーニには、包む、巻くなどの意味がある。

ロールキャベツや、餃子、春巻きなども、イタリア風な表現を借りれば、インヴォルティーニの一つとなる。

世界各地にあるダンプリング料理の大半は、メインの具材を小麦粉や米粉を使ったシートで包んだものだ。

ロール状のシートが料理の味わいを決めることはまれだ。

ところが、イタリアのインヴォルティーニはメインの食材で、その他の食材を包むのだ。

 

シチリア地方ではメカジキを麺棒などで薄く延ばし、パン粉、松の実やレーズン、ニンニク、トマトソースなどを包み込み、煮たり焼いたりする。

インヴォルティーニ・ディ・ペッセ・スパーダにも、グリルした後にサルモリッリオというソースをかけるレシピや、

美食家風という意味をもつギオッタ風のソースで煮るレシピがある。

歯触りの軟らかなメカジキの身の中から、独特の香りの具材が口に広がる。

比較的淡白な味わいの白身魚に、バランスのとれた風味を添えてくれる。


メカジキばかりでなく鶏肉、豚肉、ハム、ナスなどが用いられることも多い。

イタリアでは地方ならではの食材を活かしたレシピがあり、インヴォルティーニ一品をとっても、バラエティー豊富な味覚が隠されているのだ。

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