アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 78

 

 

太陽光を遮断し内部の温度と湿度が一定に保たれた暗闇の教会

~ トルコ カッパドキア 岩石遺跡群/カランルク・キリセ ~

 

トルコのアナトリア高原に広がるカッパドキアの火山岩台地には、住居に作り替えた奇岩群が点在する。

台地の東部に聳えるエルジェイス山と南西部に姿を見せるハサン山が、何度となく地中のマグマを巻き上げ、地表を煮えたぎる溶岩で地表を覆った。

火山活動がおさまると空気によって冷やされた溶岩は固まり、あたり一面に奇岩を林立させた。

乾燥しきった大地に広がる岩山の光景は、人間が近づいてくることを拒否しているように見えるが、

古くから数多くの人々がカッパドキアの大地に住み着いた。

 

無機質な岩山を削り、日常生活を送るための自宅を作った。

土の上に木材やコンクリートを運び込んで柱や屋根を作るのではなく、現地にある岩を削り出して居住空間を構成するのだ。

資材の運搬作業など全く不要で、現場の自然が唯一の建築資材だ。

 

火山岩台地の降口の一つであるギョレメ渓谷には、カッパドキアでも最大規模の集落が作られた。

火山岩によってできあがった住宅街は、他の地域では見ることができない。

決して住みやすい環境ではないが、地域に暮らす人々は互いに助け合って生活を営んだことだろう。

カッパドキアに暮らした人々は、幾多の障害を乗り越えながらキリスト教を篤く信仰し続けた。

集落には個人の住居ばかりではなく、教会も岩を削って建設した。

正確な数は把握されていないが、全てを数え上げれば100を超えると言われている。

 

特にギョレメの集落の中心から約1キロのエリアには、数多くの洞窟修道院、聖堂が密集している。

大小約15のキリセは、ギョレメ野外博物館として一般公開されている。

 

ギョレメ野外博物館の敷地内の中心から少し東よりの位置にカランルク・キリセが建つ。

11世紀から12世紀の初めにかけて建造された教会だ。

修道士たちは一つの大きな凝灰岩の岩山に目をつけ、内部を削り出し大きな洞窟を作った。

6つのドームの他に3つの後陣で構成された聖堂は、円蓋バシリカ様式による教会だ。

 

自然の岩山を削りながらも、ビザンティンの様式が実現していることは驚異に値する。

凝灰岩による白壁に、玄武岩質の黒い屋根は、自然の素材のみを使ったものとは思えないような絶妙の配色だ。

数々のアーチが幾何学的にも正確に構成されている。

火山岩としては柔らかいと言われる凝灰岩であっても、思い通りのデザインを実現するには人並み外れた努力が必要であったに違いない。

現在では宗教的な意味は消え失せ遺跡として公開されているのだが、このキリセで祈りを捧げ続ける人がいたとしても不思議はない。

 

巧みなデザインが施された正面をもつカランルク・キリセではあるが、他にも大きな特徴をもっている。

陽射しを聖堂に呼び込む窓が、拝廊部分に1つしかないことだ。

太陽の光は教会の内部にほとんど届かないことから、「暗闇の教会」と呼ばれるようになった。

視界が遮断され静まり返った空間では、信徒たちはより深い祈りを捧げたことだろう。


外部から熱が加えられることのない空間は、温度や湿度が一定の水準に保たれる。

そのため、壁面に描かれたフレスコ画は、長い歳月を経た今も色褪せることなく鮮やかな彩りのまま保存されている。

とは言っても暗闇の中の壁画は、光の助けなしでは肉眼に捉えることはできない。

ライトで照らし出せば、

「キリストの昇天」、「聖人たちの祝福」、「全能のキリスト」、「キリストの変容」、

「洗礼」、「最後の晩餐」、「罪人を救う」、「ユダの裏切り」などのフレスコ画が、色鮮やかに浮かび上がってくる。

写真(遺跡78-2)-2

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