アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 79

イコノクラスムに秘かに抵抗しながら描いたベンガラ色の単純な装飾

~ トルコ カッパドキア 岩石遺跡群/聖バルバラ・キリセ ~

 

トルコのアナトリア高原の中央部には、カッパドキアの火山岩による奇岩群の光景が広がる。

その中心集落のギョレメから約1キロの位置には、キリスト教の教会が密集し、現在はギョレメ野外博物館として公開されている。

 

博物館の敷地内には、火山岩をくりぬいて作られた13の教会が点在している。

入口から時計の針と反対方向に、トカル・キリセ、バシル・キリセ、サクル・キリセ、エルマル・キリセ、聖バラバラ・キリセ、ユランル・キリセ、カランルク・キリセ、聖カタリナ・キリセ、チャルクル・キリセラヒベレル女子修道院、モンク修道院などの施設が立ち並んでいる。

 

いずれの教会保存状態が極めてよく、現在でも本来の目的を果たすことができそうだ。

カッパドキアの人々は時代と苦難を超えて、キリスト教を篤く信仰し続けた。

野外博物館のエリアでは、聖バジルや彼の兄弟たちによって、キリスト教の全ての思想を統合した教育制度が実践されていたのだ。

 

各々の教会は一つの岩山を削って作られているのだが、エルマル・キリセ聖バラバラ・キリセは、一つの大きな岩山に表裏を設けるように形成された。

いずれの教会も、11世紀から12世紀にかけて固い凝灰岩が加工された。

 

聖バラバラ・キリセは、岩山から削り出された二本の円柱が支える本堂の天井には十字架のレリーフが施され、後陣にはドームを描く3つのアプスが構成されている。

周囲の火山から噴出したマグマの塊を素材としながらも、教会という建築物にビザンティンの様式を忠実に実現している。

各々の造形物に焦点を絞れば、石造彫刻の集合体のように見えてくる。

自由に造形することが難しい自然の岩を使いながらも、均整のとれた美意識を漲らせている。

 

ローマ帝国から受け継がれた建築デザインに圧倒されるが、空間を構成する壁には数々の壁画が描かれている。

聖堂西側の壁面には、聖女バルバラの姿が描かれる。

この壁画が聖堂名の由来となった。

聖女バルバラは、アナトリアのニコメディア出身とも、エジプトのヘルモポリス出身とも伝えられている。

3世紀にキリスト教に触れ改宗し洗礼を受けたのだが、反感をもった父親に殺害されてしまった。

生前の気高い行いから聖人として、後世に語り継がれるようになった。

 

また、北の壁面には、聖ジョージと聖テオドールが馬に跨って、大蛇を退治する光景が描かれる。

白馬の上の2人の聖人から精悍なエネルギーが放出されているようだ。

聖人たちがリアルに描かれる一方で、周囲はベンガラ色の単色で描かれた単純なモチーフで縁取られている。

額縁のような装飾は、聖人の姿を立体的に浮かび上がらせる。

 

水平方向に延びる額縁の上側の面には、幾何学模様にも神話的動物にも見える絵柄が施されている。

単純な図柄だが、キリスト教に関する何かを象徴するものだと推論されている。

 

白馬の上の絵柄は孔雀のように見える。

孔雀の肉は腐ることがないと伝えられることから復活を暗示し、キリストを象徴しているとされる。

また他の面に描かれる稲子のような昆虫はキリスト教への改宗を象徴していると考える研究者がいる。

 

726年から843年にかけては、マリア像やキリスト像、聖人像への崇拝が禁止する聖像崇拝禁止、イコノクラスムが発せられた。

数々の聖像が破壊される中、新しい聖像を描くことなどもっての外であった。

カッパドキアに暮らす人々は聖像をリアルに表現することを避け、暗示、象徴する文様を施すことによって信仰の対象としたと考えることができる。

 

写真(遺跡79-2)

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