ブドウの葉で包んだ挽肉入りのピラフ
~ ギリシャ料理 ドルマダキア ~
日本は日本海と太平洋に挟まれた細長い島国だ。
海外に出かけるにはどうしても、いずれかの海を超えなければならない。
ところが、東の方向には太平洋の大海原が延々と続く。
アメリカ大陸から外国人が初めて日本に訪れたのは、江戸時代の幕末に黒船によるものだ。
逆に西の朝鮮半島、中国大陸は日本海の幅も狭く、古くから日本人にとっても身近な存在であった。
古代から世界をリードする文化を育み続けたギリシャは、ヨーロッパ大陸から地中海に突き出したバルカン半島に広がる国だ。
イオニア海を西に漕ぎ出せばイタリア、エーゲ海を東に向かえばトルコに上陸する。
中世には十字軍の船が繰り返し行き来し続けた海の丁度中間点に位置する。
東西の両方向から、絶え間なく多くの人々が半島に上陸した。
長い時間、波に揺られて来た客をもてなす会食も数知れず行われたことだろう。
地元の旬の食材を振舞えば、旅の疲れは癒されるに違いない。
ギリシャは地中海に面しているため、海の幸に恵まれる。
でも、同じように地中海で水揚げされた海産物をふんだんに利用するイタリアや南フランスより、ギリシャ料理はトルコに近いと言われることが多い。
歴史を顧みれば、中世にアナトリア半島で繁栄を極めたビザンティン帝国は、ローマ人を自称するギリシャ人を中心とした国家だった。
帝国に変わってオスマン・トルコがアナトリアを支配すると、今度はギリシャの国土がオスマン・トルコの領土となる。
ギリシャは、西ヨーロッパの国々よりも、むしろトルコと深い関係をもち続けたようだ。
現在の国土も北東部で国境を接している。
海と陸を接点として、トルコからギリシャに文化が伝わったのだ。
料理のレシピでも、ギリシャ料理にはトルコ料理によく似たものが数多く見られる。
ギリシャの家庭料理のドルマダキアも、その一つに挙げていいだろう。
ブドウの葉を使った世界的にも珍しい料理だ。
日本でもブドウは栽培されているが、果実として食べられることはあっても、葉を食材とすることはない。
アルコール飲料を飲む人にとっては、ワインを作り出すブドウは身近で貴重なものだ。
ギリシャでは実だけではなく、ブドウの葉も食材として利用されるのだ。
瓶詰のブドウの葉は、どこででも手に入る。
家庭のキッチンに持ち込まれたブドウの葉は、軸の部分を取り除き軽く茹で、適当なサイズに切る。
少し柔らかくなったブドウの葉で、牛や羊の挽肉、タマネギ、ニンニク、パセリなどに米を加えたフィリングを包み込む。
フィリングは、塩、コショウでしっかりと味付けをするのが重要だ。
ロール状となった材料を一つ一つ丁寧に鍋に並べ、トマトピューレ、オリーブオイル、レモンの汁などを回しかけした後、水でひたひたにする。
落とし蓋をして1時間足らずじっくりと煮込む。
ブドウの葉が柔らかくなり、汁気がなくなればドルマダキアができ上がる。
外観は日本料理のロールキャベツ、トルコ料理のキョフテを思わせる。
各々、キャベツ、ピーマンが巻物として使われているが、ドルマダキアの場合は薄いブドウの葉だ。
歯触りは桜餅に近いと言えるかもしれない。
ブドウの葉には特徴的な味はないが、仄かなハーブの香りをもつ。
口の中ではふんわり、とろけるように広がり、具材の味をまろやかに引き立ててくれる。
米が入っているのでブドウの葉で巻かれたピラフだ。
ドルマダキアに添える飲物はと言えば、やはりワインということになるだろう。
ブドウの果実と葉の両方を同時に味わうことになる。
同じ種類の樹で育ったわけだから、お互いの味を引き立ててくれるに違いない。