幻想的な空間表現、独特の透明感を出すテクニック。
特別なアプローチでは無いのですが、どこか魅惑的な雰囲気の作品を生み出すアーティストが、シルケ・オットー・ナップです。
イギリス・ロンドンを中心に制作を続けるアーティストとして知られており、日本では初個展を2006年に開き、アート界ではちょっとした話題となった人物です。
シルケ・オットー・ナップの作品のモチーフは、パフォーマンスをする人々やロック・ミュージシャン達。
彼らの動きを水彩で描き、どこかダイナミックなのですが、優しく浮き出すようなシルエットで描きだすアプローチが独特です。
基本的には銀色に近い灰、モノトーンのタッチを中心にした作風なので、シックなイメージも与えてくれるのですが、やはりどことなく色を感じさせるというか、熱量のある体温を感じることができるのが、テクニックなのでしょうか。
さてさて、そんなシルケ・オットー・ナップなのですが、踊る方などだけではなく、都市景観、歴史的写真などでもモチーフにした作品も多い事で知られています。
そういった意味からも、本当に特別では無い、そういったソースから独自の世界観を生み出すことができるという才能は、どういった感性から養ったのでしょうか。
どうも基本的にな考え方として、目の前にあるダンサーなどをただただ描写するだけでなく、そこから新しい絵画空間を作り上げていくという方法を取っているようです。
詰まるところ、本当にモチーフという事だけであり、そこから得られる何かの空間感情から、自らの世界を築き上げていく、という作業が行われているということなのでしょう。
シルケ・オットー・ナップの作品自体、どこか幻想に包まれたような雰囲気となっており、頭の断片で決定的にならない、おぼろげな想像を描いているような、そんな感覚も受けて取れます。
さて、今までとは打って変わり、新作を近頃発表したのですが、モチーフが島と海という、これまた普通の風景写真のようなものになっています。
舞台を通じて描いていた時と同じ、プロセニアム・ステージという空間に対するところが、風景に近いものを感じたとのこと。
彼曰く、空間自体が持っている奥行きなどの技巧的部分から、感性された世界を想像する事が出来るという事。
そのため、ポジティブスペースを島、海、雲など、様々な視点から切り取る事により、ただの風景画を越えた、立体的な空間を作り上げる事に成功したのです。
ひとつの舞台として、風景を切り取る事で、ひとつひとつのモチーフにドラマが生まれるのでしょうか。
そういったところから、次には制作の過程で起こっていくタッチからの厚み。
自分でも想像できていなかった効果が生まれ、それが思惑とは真逆になったとしても、想像を越えた新しい舞台を築く事ができているのです。
とにかく、シルケ・オットー・ナップの作品は、空間という言葉抜きには見ることができます。
ただただ描かれたものとは、違う、どこか絵画を越えた静止していない状況の絵画。
常にその空間を感じる事ができるような、独特な感性こそ、唯一無二のものを感じることができるのです。
一見、ダークな世界観を築き上げているような雰囲気もありながら、そこには人はもとより、生きている空間が散りばめられています。
すでに、東京での展覧会は終了してしまっていますが、シルケ・オットー・ナップの作品を見る機会があったら、是非一度は目を通しておくと良いのではないでしょうか。