Vol.3 : 9 Questions for 谷尻 誠

建築家 谷尻 誠

子どもが一番楽しいのは遊び方を発見したとき。
もしかしたら街の中で出会う人から刺激をもらって成長し、路地や大きな塀は創造力を高める格好のキャンバスになるかもしれません。
それなら保育園の中に街をつくってしまいましょうということで、谷尻さんの斬新なアイデアが「まちの保育園」(辻堂)となって4月に誕生します。
周りをあっと言わせる発想力はいったいどこから生まれるのか?
「9 questions」をぶつけて、頭の中を覗いてみました。

 

学んでいないからこそ見られる視点もある

 
1. 現在までに一番影響を受けた人物はどなたですか?

社会人になりたてのころお世話になっていた工務店の社長さんは、ある種僕の師匠ですね。

当時は建て売り住宅とか、今とはまったく違う物件を扱う会社にいたので、独立したとき建物のつくり方がわからなかったんです。「つくりたい」という想いだけで聞きにいって、励ましてもらいながらいろいろなことを教えてもらいました。建築家になる人は、たぶん学校で建築を学んで、設計事務所に入って、師匠がいて‥‥と、サラブレッドコースなわけですが、僕はどこかの牧場の、馬かどうかもわからない存在で、コンプレックスでしたよ。

ただ、学んでいないからこそ見える視点もあるのでは、と思っていました。不利に思えることを違う側面から見ると、有利になることもあるんです。学生時代はずっとバスケ部だったんですが、僕は背が小さかったので、みんなと同じ方法でプレイしても太刀打ちできなかった。そこで視点を変えて、長身の選手が考えつかないような方法を編み出し練習したら、それがうまくいったんです。当時引っ込み思案だった僕が、しまいにはキャプテンになって、みんなを引っ張っていく存在になっていました。あの時の経験は、現在の建築家としての視点にも生きています。建築は1人でやる仕事ではないので、助けてくれるスタッフを含め、チーム全体をオーガナイズしていく力になっています。

「初めて」の気持ちは未来への希望に満ちあふれている

2. 一番お気に入りの本はなんですか?

「はじめて考えるときのように」という、野矢茂樹さんの本があって、あっという間に読み終わってしまう哲学書なんですが、これがすごく好きなんです。何事においても、「初めての○○」っていいじゃないですか。デートでも、旅行でも、おつかいでも、未来への希望に満ちあふれていますよね。「初めて」ということは、「経験がない」ということで、「経験がない」ということは、「自由な発想」を持てるということに置き換えられるんですよ。

たとえば美術館ばかりつくっている人は、「美術館とはこういうもの」がすり込まれていて、どうつくっても美術館ができてしまう。もしかしたら僕たちのように、美術館をつくったことがないからこそ、もっといい美術館を発想できるかもしれないのに‥‥。ところが建築は、「初めて」などと言うと「オイオイ、大丈夫か」ということになってしまうので、若手の僕などが新しいものを生み出すことによって、「こういう人がつくると、こんなおもしろいものになるのか」と認めてもらい、活躍の場を広げなくては、と思います。

これから建築家を目指す人たちに夢を与えたいし、楽しい建築で明るい未来にしたいんです。この本を読むと自分の気持ちをスタートラインに戻してくれるので、どのプロジェクトも常に「はじめて考えるときのように」取り組んでいます。

話すことで意識が高まり、現実に近づいていく

 
3. アイデアを出すときにいつもしていることはなんですか?

コミュニケーションですね。

施主さんでも友達でも、アイデアは常に人に話して「どう思う?」と聞いています。いつだってプレゼンをしているようなものですね。特に建築と関係のない人たちにどれだけちゃんと伝わるか。言葉で伝わらないようなら、それはダメだと思うんです。話したアイデアをしっかりイメージしてもらえて、「それいいね!」という言葉が返ってくればいい線いっているのだろうし、「こうしたらもっとおもしろそう」という意見がとても参考になるのです。

頭の中だけで思っているよりも、話すことで意識が高まり、現実に近付いていくのでしょうね。あとは、依頼されてもいないことをよく考えています。例えばふと目にしたテレビCMからヒントを得て、ある店舗デザインのひらめきをもらう。そして、プレゼンできるところまでもっていって、話す。そうすると、「その話いいね」と、実際に依頼を受けることになったりもするんです。ヒントはありとあらゆるところに転がっているし、それが仕事につながらなかったとしても、ムダにはならないですよね。

発言に価値を見出してくれる人の出現

4. 現在の仕事を選んだ理由を教えてください

もともと洋服が好きで、ファッション雑誌をよく見ていたのですが、そのうちかっこいいモデルの後ろに写っている小物や家具、インテリアが気になり出したんです。それと同時に窪之内英策さんの「ツルモク独身寮」というマンガが大好きで、インテリアデザイナーを目指すストーリーに影響を受けました。

高校卒業のときにインテリアと建築の専門学校を勧められて入学したのですが、初めて勉強が楽しいと思えましたね。就職も勧められるがまま簡単に決まってしまって、ぬるま湯に浸かるような仕事をしていたのですが、そのとき自転車にハマッていて、サラリーマンだとレースに出られないからという理由で会社を辞めてしまったんです。
のらりくらりと下請けの仕事でもしていればいいや、と思っていたのだけど、生意気にも意見してしまうものだから、仕事もなくなり、焼き鳥屋でアルバイトしていました(笑)。だけど「こんなことしたらおもしろいんじゃないか」という僕の発言に価値を見出してくれる人がポツポツ現れはじめたので、がぜん本気になりましたね。「話す」ことは大事だと思いました。

おもしろいことを考えている脳みそを買ってほしい

 
5. 10年後の自分を想像してどうなっているか教えてください

ずっと前のめりでやっていたいです。明日さえ想像できないので、10年後なんてもってのほかなんですが、やりたいこととしては、自分のアイデアを買ってもらえる存在になりたいです。もともと物事の本質をたどるのが好きで、なぜそういうことが起こるのか、どうしてこれが評価されるのか、ものごとの原点を常に考えているんです。

多方面から追求して、だれも考えつかなかったことをひらめく。そのような思考の方法であれば、どんなジャンルでも問わず、この「おもしろいことを考えている脳みそ」を買ってくれないかなって(笑)。「アイデア事務所」とか作りたいですね。相談を持ちかけられる人になりたいです。

「余計なお世話ゾーン」を大切にしている

 
6. 仕事をする上で一番大切にしていることはなんですか?

「余計なお世話ゾーン」を大切にしています。
たとえば100メートル走をするとして、僕はスタートラインよりさらに手前20メートルの部分から走ろうと思っているんです。この20メートルを「余計なお世話ゾーン」と言っているのですが、ふだんから勝手に走っているんですよ。「よーいドン!」の合図でみんなは0キロのスピードで走り始めるけど、僕はすでに10キロのスピードが出ている。そうするとだれよりも早くゴールできますよね。

同じ100メートルでもそういう風に仕事をしたいんです。
頼まれてから考えるのではなく、頼まれてもいないうちから考える。この助走の部分でどのくらいできているかということが、今後の世の中に「違い」となって現れてくるのではないかと思うんです。ここでやっていたことが、あらゆることに派生してくるので、とても大事ですよね。

家族が揃っていることよりも学べた父親の背中


 
7. 幼少のころ、どういう子どもだったと思いますか?

いつも学校から帰ったらすぐ川に行って、1人で釣りをしていましたね。今は1人でいるのが嫌いなんですが、子どものころはできたんです。婿に入っていた父親と、母方の祖母と、僕の3人で暮らしていて、当時は片親だとグレるのがお決まりだったけど、そういうことを言い訳にするのはかっこ悪いと思ってました。

そういう家庭環境だと周りの人は優しくしてくれていたはずなので、感謝ですよね。
それに父親が自分の実の母親でもない祖母にすごく優しかったんです。2人の仲の良さを見て育っているので、家族が揃っていることよりも、むしろいろいろ学べたような気がします。
祖母からは厳しく、父親からは自分で責任を取れることをしろと言われて育ったのですが、早く自立するよう自分で考えることを強いられていたのは、とてもいいことだったと思います。

自分が抱えていることの問題しか起きない

 
8. 自分の性格を一言で表すとなんですか?

ポジティブだと思います。たとえ落ち込んでも、翌日にはすぐ忘れちゃう(笑)。
それに、自分が抱えていることについての問題しか起きないので、解決できると思っているんです。
大きな問題が起こったのだとしたら、それだけ自分の度量が増えたということ。それに、原点を探すのが好きなので、問題が起こったのはなぜか、と考える楽しさがあるんですよ。ただ、気付いたのは「1人で元気」っていうのはすごく難しいんですよね。

みんなが笑っていると自分も自然に笑える環境ができるし、みんなが悲しいと自分も悲しいはずなんです。そういうものだとわかってからは、自分のことよりも、周りを盛り上げるムードメーカー的な役割になっています。お笑い芸人ほどではありませんが、喜んでほしいと思ってしまいます。これは仕事でも一緒ですね。

周りが楽しく元気な様子に救われる

 
9. 異性に対して求めることはなんですか?

あまり考えたことはないですが、やっぱり「笑顔」じゃないでしょうか。
しんどいことを「しんどい」と言うのは簡単だけど、間接的に元気をくれる人はいいですね。その人が楽しそうだったり、元気だったりすると、救われる気持ちになるんです。周りの影響は大きいと思うので、いつも愚痴を言っている人には会いたくならないでしょう。いろいろあるけど頑張っているよ、と聞けば、自分も頑張ろうと思える。

僕が仲良くしている人は女性も男性もポジティブで、元気をくれる人が多いですね。いつも否定している人は、なにかのせいにしているけど、結局自分のことを否定していることになるので、それは気をつけた方がいいと思います。人にいい影響を与える人間でいたいですね。

about:谷尻 誠クリエイターページ

interview&text 清水麻衣子

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