Vol.6 : 9 Questions for 市川有人 @yujin_ichikawa

名前:市川有人(いちかわゆうじん)さん on Twitter

生年月日:1974年8月24日

職業:編集者

出身:埼玉県

 

 

自身のTwitterプロフィール欄で、「日本一ノート本を売った編集者」と豪語しているのは、現在ダイヤモンド社の書籍編集部に所属している市川有人さん。現在は「40代を後悔しない50のリスト」が12万部を超えるヒット作になっています。

活字離れが叫ばれて久しい世の中で、ヒットを出し続ける理由はどこにあるのでしょうか。そもそも編集ってどんな仕事? 市川さんに様々な疑問をぶつけてみました。

 

奥付の番号に直接電話

1.どうやって編集の世界に入ったのですか?

元々大学ではフランス文学を勉強していて、当時は研究者になるつもりで大学院の進学を真剣に考えていました。でも大学4年の時に父親が亡くなって進学が難しくなって就職することにしたんです。それで、本が好きだったので就職するなら出版社かなって思って、後は父が編集者だったというのも影響しているのかもしれません。とりあえずよく読んでいた本の出版社の奥付を見て、10社くらいにいきなり電話を掛けました。

 

奥付の電話番号にいきなり掛けたんですか?

そうです(笑)。行きたいと思っていた出版社はどこも大きいところではなかったので、求人が出ているのかもよくわからず、とりあえず片っ端から電話をしました。その中で唯一、一社だけ一般公募をしている会社があり、そこに入りました。そんなこんなで入社した初めての会社ではそれこそ企画から編集、取次交渉、梱包までありとあらゆることをやってました。ですが、元々編集がしたくて入ったのに何か違うなって感じて、2年ほどで退職したんです。当時は編集自体が合わないのかとも思いました。

 

その後はどうしたんですか?

その後、ふらふらと海外に行っていたりしたのですが、結局現地でもフリーペーパーを作っていたりして、そのとき、やっぱり編集が好きなんだなって改めて感じましたね。それで帰国して改めて出版社に就職しました。

 

「本が好き」な人には向いていない?

2.では、どんな人が編集者に向いていると思いますか?

本が好きな人は出版社には入らないほうがいいと思います(笑)。

 

それは意外な答えですね!

もちろん本が好きなことは大前提としてあるんですけど。特別本が好きな人って、一般の人の感覚からずれていることが多いと思います。自分の好きなものが一般の人と同じ場合は幸せですが、そうじゃないと、本作りはどんどん自己満足になってしまいます。逆に、うちの編集者の中には大学まで一冊も本を読んだことがなかったという人がいますが、そういう人ほど、実はヒットメーカーだったりするのです。僕の場合も本は好きでしたが、読んでいたのは文芸や人文書ばかりだったので、ビジネス書には全く興味がなかったです。ビジネス書は2005年に初めて作るまでは一冊も読んだことなく、全く知らない業界だったんですよ。

編集者は、本が好きな人というよりも、「人に伝える」のが好きな人がなるべきだと思っています。例えば、ある大発見があるとして、それをいかに多くの人に伝えればいいのかを考えるのが編集者の仕事です。どれだけすごい発見でも、それを伝えない限りは消えていってしまいます。そのとき、より多くの人に伝えるための技術を持っているのが編集者であるべきです。よく勘違いされるように、発見自体が好きな人ではないということです。もちろん、発見は大好きなのですが、それでは読者の立場と変わりません。

いかに本が好きかは問題ではなくて、どれだけ伝えることに熱意を持っているかだと思います。もちろん一概には言えないですけど、僕はそうあるべきだと思うんです。

なるほど。深いですね。「好きなことが得意なこととは限らない」という考え方には非常に共感します。

 

FAXが壊れるほどの反響

3.ビジネス書との出会い

今でこそビジネス書は向いていると思いますけど、実はビジネス書を担当することになったのは、入社した二社目の出版社がきっかけだったんです。ちょうど2003年あたりから、世の中に経済書とはまた違う「ビジネス書」と呼ばれる本が増えてきたんです。それで、2005年くらいから2年間くらいかけてビジネス書について分析したりして、2007年に担当した『情報は1冊のノートにまとめなさい』が大ヒットしたんです。当時の反響はと言うと、注文が殺到しすぎてFAXが壊れてしまったくらいです(笑)。電話も一日中鳴りっぱなしでしたね。初版は6,000部で出したんですけど、あっという間に30万部にまで膨らみました。

 

最初から「売れる本を作ろうとすること」

4.ヒットした理由はなんだと思いますか?

ヒットの理由は偶然も含めてたくさんあると思いますが、一つあげれば、「読者の知りたいこと」を伝えるのに成功したからだと思っています。『情報は1冊のノートに…』というのは僕が付けたタイトルなのですが、何より自分が1冊にまとめられていなかったこと、常に1冊にまとめたいと思っていたことから、自分が読者を代表できていたというのは大きいと思います。また、僕はいつも思っているのですが、売れる本を作るには「売れる本を作ろうとすること」が一番大切だと思います。当たり前のように聞こえるかも知れませんが、全然当たり前ではありません。売れる本が作りたければ、多くの人に伝わる本作りをしないと最初から無理なわけです。そのために、当時は書店でノート、手帳、メモとタイトルに付く本は端から端まですべて読みましたし、見出しやコピーを一つ付けるのも、多くの人にヒアリングをしていました。

あと大きいのは、「広告戦略」でしょうか。あの本は、最初に日経新聞の半五段を使って宣伝したんです。色々考えていたコピーが、広告でどう伝わるかをどうしても試してみたくて。それも、普通なら売れ筋とか押したい作品を一緒に紹介するのが常なのに、贅沢にもその一冊だけを取り上げました。社内では大顰蹙でしたが、なんとか説得して踏み切ったんです。そして、その広告が出た日から売上データが20倍くらいになって、一気に全国から注文が殺到しました。それからは、新聞広告をガンガン打って、電車の中吊りもやりました。小さい出版社から初めてのベストセラーが生まれたと、書店に向けた手書きの手紙風広告を出して話題になったりと、面白いほど広告効果がありました。ただ、最初の火種を作った自負はありますが、それを大きくしていったのは、営業部のみなさんのおかげだと今でも思っています。

 

 

5年で100冊

5.アイディアはどこから出てくるものだと思いますか?

アイディアってアナロジーだと思うんですよ。ゼロからうんうんうなって生み出すものではなくて、一つの言葉に反応して何か別のことを思いついたりするものだと。だから、「アイディアは反射神経」であると考えています。見た瞬間、聞いた瞬間に、いかに「思いつくか」が勝負だと。そのためには、ゼロから生み出せないので、トリガー(ここでは、「アイディアを生み出す引き金」の意)をいかに多く持つかだと思っています。僕の場合、トリガーは毎日の習慣から生まれることが多いです。

僕は毎日、新聞の下段にある本の広告部分を切ってノートに貼り付ける、という作業をここ5年間ぐらい続けています。近々デジタル化しようと思っていますが、もう100冊くらいになりましたね。もちろん、こんなアナログ作業だけでなく、ネットでの情報収集もしていますが、新聞というフィルターを通すのには意味があるのです。新聞広告は出版社の規模にも関係しますが、各社のエース級の本しか載っていません。ネットは玉石混交ですが、新聞はすでにフィルタリングされているのです。それも、編集者が必死で考えたキーワードに落とされているのが大きなポイントです。これは大きなトリガーとなります。アナログのノートやデジタルノートを使って毎日習慣にしている記録は、実は他にもあきれるほど多くあるのですが、その辺は秘密です(笑)。

社会を変える、を実感できる

6.編集者の魅力とは?

やっぱり色んな人に会えるってところが大きいですね。あらゆる業界の著名人にだって、編集者の名刺を出せば会ってもらえる。あとほかの業界と違うところは、社会(世の中)を少しでも良くすることができる仕事だと言うことです。自分が作った1冊の本を通じて社会を良い方向にダイレクトに変えることができる。これは仕事をする上ですごく重要な感覚だと思っています。この仕事に何の意味があるのか、という問いに答えることは普通の仕事では難しいところがあると思いますが、編集者は社会とのつながりをリアルに実感できる仕事だと思います。社会というのは、最小単位で言えば読者ということです。人に感動を与えたり、心を動かしたり、それこそ人生に影響を与えたりすることが出来るのが本であって、編集者の仕事だと思うんです。

あとは、人間が成長するには三つの要素があると思っていて、それが「体験・出会い・読書」なんですけど、編集者はそれが一番出来る仕事だと思います。

 

夜の時間を朝に

7.最近変化したことはありますか?

以前は夜型だったのを朝型の生活に変えました。年齢もあるんでしょうが、毎晩遅くまでやりすぎて倒れたんです。それで、もう少し健康的になろうと。と言っても起きるのは7時くらいなんですけど(笑)。起きてから出社するまで自宅で2時間くらい仕事をしています。元々は夜にやっていたことを朝に変えただけなんですけどね。朝型にするとやっぱり効率がいいですね。2時間くらい仕事をやって、それから10時半頃出社する、というのが最近のライフスタイルになっています。出社してからは、基本的にはデスクで仕事をしていますが、資料の本を読むために近くの喫茶店にこもることもあります。

基本的に「ノマド」のワークスタイルなので、鞄さえ持っていれば喫茶店でもどこでも仕事ができますね。昔から原稿を読むのは会社だとできないタイプなので、わざわざ喫茶店やファミレス行って仕事をすることも多いです。だから、パソコンや通信機器、文房具一式など荷物も多くて、「一泊するんですか?」って聞かれるくらい色んなものを持ち歩いてますね。社内での用事が特になければ、打ち合わせがなくても外で仕事してそのまま帰る、ということも良くあります。

編集者が見る書店

8.やはり書店にはよく立ち寄るんですか?

毎日の習慣として、本屋に立ち寄ることを心掛けています。理想は、毎日違う書店にいければいいんですけど、やっぱり遅くまで開いている店舗とかに偏ってしまいますね。書店に行ったら、単純に入り口近くの新刊台を見て売れ筋商品のチェックもしますが、それ以上に、自分が手掛けている本の類書が置いてある棚に行って、出版したらどこに置かれるのか、どういうデザインにすれば目立つのかなど、店頭のイメージを総合してチェックしています。

時には山ボーイで登山をエンジョイ

9.話は変わりますが、最近のマイブームを教えてください

実は今、山登りが趣味なんです。「山ガール」じゃないんですけど、流行っていることにはとりあえず挑戦するスタンスです。正確には山登りというかハイクですけど、最近だと、先週高尾山に登ってきました。高尾山はケーブルカーで登るイメージですけど、ルートを変えると実はものすごい自然の豊かな道を歩けるんですよ。ハイパーノマドの高城剛さんが時々大自然の中で過ごされているのに以前から憧れていて、週末単位で行けるところに、時々車で出かけています。最近、自分の中で「インとアウト」という言葉が流行っていて、インドア(サイド)、アウトドア(サイド)の使い分けについてよく考えています。オンとオフというのは現実的には線引きができないので、内か外かで線引きしようとしているんです。

あとは城や神社が好きなんで、日本100名城や全国の神社を大型の休みにはたいがい回っていますね。僕は前から城や神社が好きだったのですが、最近はまさの歴史ブームで周囲の理解を得ました(笑)。ブームといえば、ロードバイクのブームにのって1年前くらいから始めたのですが、少し飽き気味で最近はすっかりご無沙汰です…(笑)。

 

意外な一面も覗けて、編集がどんな仕事なのかなんとなくイメージが出来ました。仕事に対するスタンスや考え方などは他の業種でも応用出来そうですね。ありがとうございました!

 

(編集後記)

博識な雰囲気で静かに語りかけるように、そして時にははにかむような笑顔を交えながらインタビューに応じて下さった市川さん。穏やかな物腰の裏には日々積み重ねてきた確かな実績が伺えました。お話に説得力があるのも、データや「仮説→検証」の繰り返しから得た裏付けがあるからなのでしょう。そんなインテリな一面とは逆に、登山を楽しむ別の顔も持ち合わせていたり、とにかく好奇心旺盛で行動力のある方だなという印象でした。私はこれまでアンチブーム派だったのですが、これを機にブームに乗っかってみようと思います(笑)。

市川さんが最近担当された書籍

編集部のおすすめアイテム/人/場所

集英社文庫「編集者という病」見城徹著/本体619円+税

美術出版社「スゴ編。」編集者jp 編著/本体1,500円+税

講談社「編集者の学校」Web現代編/本体2,800円+税

新潮新書「編集者の仕事」柴田光滋著/定価735円

文春新書「2011年新聞・テレビ消滅」佐々木俊尚著/定価788円

バジリコ「新世紀メディア論」小林弘人著/定価1,575円

 

interview&text 高良優希

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