名前:波佐間明美(はさまあけみ)さん
生年月日:1978年3月10日
職業:帽子デザイナー
出身:東京都品川区
宮崎あおいさん・櫻井翔さんが出演する映画「神様のカルテ」をはじめ、香里奈さん・黒木瞳さん出演のドラマ「リアル・クローズ」、シャープの「AQUOSのCMなどで衣装協力として参加しているだけでなく、帽子作りに関するご自身の本も出版するなど大活躍中の帽子デザイナー波佐間明美さん。
その素顔はとても朗らかでおちゃめな可愛らしい方でした。ネットショップの運営や、そのアンテナショップ兼アトリエとしてオープンした「imeka」のオーナー業をこなしつつ、昼は普通のOLとして会社に勤めているというから驚きです。
そんな波佐間さんのこれまでの経緯と日常に迫ってみましょう。
教員からフリーに転身
1.大学を卒業された後、一度教員になってからフリーランスに転身しているようですが、 フリーになった経緯を教えて下さい。
出身が文化女子大学(2011年に「文化学園大学」に校名を変更。服装学部や造形学部など、デザインに関する専門教育を行っている)なので、服全般を学びました。
卒業後は教員として教える側になって、それからベネッセの研究所で外部研究員をやりながらネットショップで帽子だけをずっと扱っていました。
百貨店で催事をやったりもしていたんですよ。
その後は専門学校のバンタンで教壇に立ったりという経験を経て、現在は知り合いから手伝ってと言われたことがきっかけで入社した会社で昼間は仕事をしています。
ですから、本業もありながらネットショップもありながら、という感じで常に両方を同時進行でやってきてますね。
ネットショップ「imeka」のHPは自分で
2.ネットショップの立ち上げた当時について教えて下さい。
プロの方には敵わないですけど、結構Webは得意なのでHPは自分で立ち上げました。
検索に引っかかるように、SEO(Search Engine Optimizationの略。検索で上位に来るようにする技術)とかも使ったりして。
最初にそれなりの数の作品を揃えておく必要があったりするんですか? また立ち上げてから最初の注文が入るまでにどのくらいの期間を要したんですか?
作品数については、ネットショップなのでそんなに数は必要なくて、それこそ一個からでも立ち上げることは出来ますよ。
最初の注文は立ち上げたその月に来ました。なので比較的順調なスタートだったと思います。
初めからずっとこのネットショップのままですか?
はい、そうですね。
ずっとこのネットショップだけをやっていて、ここの「2K540 AKI-OKA ARTISAN」という施設がオープンしたのが去年(2010年)の12月なんですよ。
JRの都市開発のところがやってるんですけど、担当の方が私のネットショップのHPを見てくれたようで、「高架下に物づくりの街の施設を作るんですよという計画をお声掛け頂いたのがきっかけですね。
お話を伺って、高架下のスペースを使ったアトリエ主体の商業施設ということで、コンセプトとしては面白いなと思って出店を決めました。
私の店舗は第二期になるんですけど、先日9月に新たに17店舗入って、それを以ってここの施設は完全オープンとなりました。
作品を作るときのアイディアの源とは?
3.立体のものって作るの難しそうですよね。
でも結構、ずっと服をやってたので服と比べると帽子の方がコンパクトじゃないですか。
なので服より要素もないからそんなに大変ではないですね。
縫うのも早いですよ。
時間が掛かる帽子とかは何日とか掛けるんですけど、簡単な形の帽子とかパターンが決まっているものだったら30分掛からずにいけますね。
デザインのアイディアを出すためにしていることはありますか?
普段見ている風景とか色んな物、帽子に限らずデザイン的な物っていっぱいあるじゃないですか。
そういうものを見て、「帽子にしたときにどんなデザインに出来るかな」というのは考えますね。
例えば、靴を見ててもアイディアが浮かんできます。
靴から!?
色合いや素材とかあるじゃないですか。
なので目に映るものはすべて帽子のデザイン元というか、植物とか建築もそうです。
小物からインスピレーションを受けることもありますね。
小説でもなんでも、自分が物事を考えるのに触発されるものはなんでもアイディアの元になります。
オーダーメイドについて教えて下さい
4.実際の帽子を作る過程はどんな感じなんですか? オーダーメイドも承っているということですが。
まず、お客様が何を求めているのかを探っていくことから始めます。
「どんなシーンで被りたいですか?とか、「普段の服装はどうですか?とか。
形的にカチっとしているものがいいのか、ふわっとしているものがいいのか。
そういうところから入っていったりしますね。
ただ、オーダーを希望されるお客様というのはある程度デザイン案がある方がほとんどなので、実際にご自分でイラストを描いて持参する方もいらっしゃいますね。
ですが、やっぱり立体のことをわからずに絵を描いて来られる方が多いので、「それは二次元だから表現できることで…」みたいなアドバイスはしますね。
その場合は「立体にする場合は、ここにこういった線が入っちゃいますよ」というように、その場でお伝えします。
ということは、絵を見ただけでパターンがすぐに浮かんでくるんですか?
そうですね。
本当にアニメのようなイラストを描いて来る方もいらっしゃるので、その場合は実際の写真を見せながら、「この帽子のこの部分と、この帽子のこの部分を組み合わせた感じがイメージに近いですか?」という風に提案します。
ではデザインが決まった後はどういう工程に入るんですか?
パターンが決まっている物についてはすぐ制作に入るんですけど、初めて作るものに関しては、まずパターンを作ってから一回形を出してみて、シルエットを確認してってという流れです。
映画やCMでも活躍
5.最近では、映画「神様のカルテ」やシャープの「AQUOS」のCMなどに衣装提供もしていらっしゃいますよね。また、ご自身の本を出版したりと大活躍ですね。そこまで認知度を上げていった経緯を教えて下さい。
元々は、映画やドラマはネットショップしかなかった頃なので、ネットで見つけてもらえてお声掛けして頂いてっていう形ですね。それが宣伝になって次のお仕事に繋がると言った感じです。
超簡単「ケア帽子」が口コミで話題に
6.思い出深い作品やそのエピソードを教えて下さい。
抗がん剤などで髪の毛が抜けてしまった方が使う「ケア帽子」というのがあるというのをテレビか新聞で偶然知ったんですけど、みなさんがそこで紹介されている作り方を見て実際に作っているという事だったんです。
でも、その作り方を見てみるとすっごい複雑な作り方をしていて。きっと作っている人というのは、「自分に何か出来ることはないかな」という想いで制作している方が多いと思うんですね。
だから一概に裁縫が得意とは言えないと思うんです。それなのにそこで紹介されていたものはすごく難しい作り方をしていて。
こんな作り方をしたらもっと簡単なのにってある帽子を思いついて、その作り方をWebの方にUPしたんです。
そしたらそれを見た方が口コミで「これ簡単だからいいよね」という感じで広めてくれて、最近では病院とかで患者の家族の患者会だとか、そういったボランティアをされている方とか、今だと東北の被災地の方に送りたいので、という方もいらっしゃって、様々な形で活用して頂いています。
自分が持っている何かで誰かが使ってくれるんだったらいいなって。
人と人との繋がりっていいじゃないですか。そういうのがなんか嬉しいな、というのが最近ありました。
波佐間さんが考えた「ケア帽子」とはどういうものですか?
一枚のタオルを頭のサイズに合わせて四角く切って、一カ所を縫えばそれで出来上がりっという形にしたんですよ。
それでもし裁縫が得意な人はさらに被りやすいように頭の被るところにゴムを通してもらったりとか。
とにかく簡単なものをご提案したかったので「それだけで作れちゃうよ」という感じで紹介したら、口コミで「いいよ」っていうのが広まったみたいです。
前向きなネガティブ?
7.今だから言える失敗談とかってありますか?
帽子そのものを作っていて、こういう形を思い描いていたのに違う形になっちゃった、みたいな失敗は結構あるんですけど、これはこれで意外とカワイイんじゃないって思えて活かしちゃいますね(笑)。
失敗も成功に変えちゃうとは、ポジティブなんですね。
基本的にはネガティブなんですけど(笑)。
細かい失敗はしょっちゅうしてますよ。
おっちょこちょいなんで切っちゃいけないところ切っちゃったりとか、アイロン倒しちゃったり、アイロンに触っちゃったりとか(笑)。
ゴヤ展とのタイアップ作品
8.現在ゴヤ展(プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影/~2012.1.29)が開催中で、それに関連してこの2K540がタイアップしてそれぞれのショップがゴヤに関連した作品を制作しているということですが、「imekaではどのような作品を出展する予定なんですか?
初めにゴヤ展に出展する作品を教えてもらった時、当時のスペインのことについて調べたりしてたんですけど、どうせなら作品に登場するものが良いなと思ったんです。
ちょうど展示される作品の中に帽子というか被り物を被った作品がいくつかあったので、それで「洗濯女たち」に描かれている被り物を制作することにしました。(詳細はコチラ)
商品ではなく「作品」
9.今後の展望について聞かせてください。
本当は商品と言うよりも作品を作りたいんですよ。
この店舗にも非売品にして展示しているものがいくつかあるんですけど、なんかその作品的な形で「被っても素敵なんだけどデザイン的な形のものを作りたい」というのがあるので、そういったものに関わるような仕事をなるべくしたいなっていうのはありますね。
でもそうなると生計を立てるのが難しくなってくるんですけど(笑)。
その部分は昼間の仕事で補って、こっちはやりたいことをやってという感じが理想ですね。
どうしてもこっちだけで生計立てるとなると、「生活あるし!」って絶対なるじゃないですか。
それはなんかなって(笑)。
今後波佐間さんと同じように帽子の世界で活躍したいという人に対してオススメの物や事柄があれば教えて下さい。
帽子だと、パターンについての知識はあった方がいいだろうなとか、素材の知識、ありとあらゆる知識、情報、感性、物の考え方、それこそ目から入ってくるようなことだけではなく、その人の価値観とか考え方とかそういうのでも色んな感性って影響してくると思うので、とにかくもう色んなものに触れてというのがあります。
だから特に「これが役に立つよ」というものはないんです(笑)。
「違い」というのは色んなものに触れる中で分かってくると思うので、知識を増やすことは大切かなって思いますね。
なるほど。
昼間はOLをなさっているとか、靴や建築から帽子のデザインに繋げていくなど、想像もしてなかったことが聞けてとても楽しかったです。今後のご活躍に期待しています。ありがとうございました!
(編集後記)
ネットショップと店舗の名前にもなっている「imeka」。
これは、波佐間さんの下のお名前「明美」をローマ字にして逆さま読みしたものだそうです。
この発想も面白いですよね。とても華奢なのにものすごくパワフルなエネルギーが全身から伝わってきました。
今後もテレビなどで波佐間さんの作品が登場する予定があるとかで、これからの活動にも注目です。
生活の保障がありつつ、趣味をどんどん広げていく。とても素敵な生き方だなと思いました。
こんな女性がどんどん増えるといいですね。
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interview&text 高良優希