Vol.9 : 9 Questions for 新井達之@tats_arai

名前:新井達之(あらいたつゆき)さん on Twitter

生年月日:1964年4月22日

職業:葛飾区郷土と天文の博物館 学芸員/プラネタリウムディレクター

出身地:埼玉県

「世界最新・最強のデジタルプラネタリウムを導入 、日本初となる137億光年彼方の宇宙をシミュレートする『デジタルユニバース』を搭載し、国内でも最新鋭の設備を誇ります。しかも、上映するプログラムがすべてオリジナルで、生解説」。なんて紹介文を見てしまったら、一度は見てみたくなりませんか? 今まで抱いていたプラネタリウムに対する概念を気持ちいぐらいにぶち壊す、壮大なスケールと共に、まるで宇宙船に乗って宇宙を駆け巡っているかのようなカメラワークには圧巻です。また、12月17日(土)、18日(日)には特別プログラム「クリスマスコンサート『クリスマス・キャロル 星空に舞う愛のメロディー』」も上映されます。今回はその仕掛け人でもある、「葛飾区郷土と天文の博物館」の学芸員、新井達之さんにお話を聞きました。

この場所が宇宙

1. 新井さんがここ「葛飾区郷土と天文の博物館」で学芸員をすることになった経緯を教えてください。

小学校3年生のときに親にプラネタリウムに連れて行かれたんですよ。そのときに世界観が変わるような衝撃を受けたんです。つまり、それまで宇宙っていうのは漫画の舞台だと思ってた訳です。自分の世界とは全然関係のないSFの世界。異次元空間だと思ってた。ところがプラネタリウムで星を見ているうちに「違うんだ」ということに気が付いた。自分たちがいるこの場所が宇宙なんだ。と、鳥肌が立つような感動を覚えました。後に、大学時代に幼なじみだった友人に「学芸員になればいいのに」って言われたんですよ。そのときまで学芸員って知らなかったんですね。それで、学芸員になって天文を扱っているところに行けたら専門職としてプラネタリウムに関わる事が出来るかも知れない、と思ったんです。そしたら上手い具合に大学で学芸員になるための資格を取る講座が始まって資格を取った訳です。ところが、資格を取った所で常勤のクチはない訳ですよ。なので、大手メーカーの宇宙開発部門に就職することになった。その間も地元のプラネタリウムを手伝っていました。そのうちにここが募集を始めて、平成2年に試験がありましてね、無事通ってその年の6月から入ったんです。
実は、東京都内の公立施設で常勤で天文の学芸員のポストがある施設はひとつだけ。それもひとりだけ。僕だけなんです。そういうポストっていうのが奇跡的にあったんですよ。運良くそれを手にする事が出来たわけなんです。

日本のプラネタリウムは「ガラパゴス」

2.今まで見たプラネタリウムの数は?

国で言ったら、アメリカ、オーストラリア、スペイン、ドイツ、イギリス、シンガポール、カナダ・・・ぐらいかな? 数としては20、30施設くらいは見ています。あと国際プラネタリウム協会の大会には必ず足を運びますから、そういう時に世界の色んな情報を仕入れてくるんです。そうしているうちに日本のプラネタリウムって「ガラパゴス」だと思ったんですよ。世界の情報が全然ないところで独自の文化を形成している。それはそれで否定はしないんだけれども逆に凝り固まって新しいものが芽生えにくくなっている。そこに、海外で見た物を上手く取り入れながら新しい日本らしいプラネタリウムを作りたいなっていうのが私のこだわりです。

あるデータによると、日本が保有するプラネタリウムの数は世界で二番目と聞いたのですが。

はい、そうですね。それでもやっぱり「ガラパゴス」なんです。それこそ自腹で国際プラネタリウム協会の大会に参加する日本人なんてのは多分片手、せいぜい両手に収まる程度ですよ。会社から派遣されて行くというのであれば全体では30人くらいはいますけど。

繊細さと緻密さはトップクラス

3.近年の日本のプラネタリウム事情はどうなっていますか?

日本のプラネタリウムが「ガラパゴス」になったもう一つの理由に、日本人と欧米人の世界観、宇宙観の違いがあると思うんです。彼ら(欧米人)にとって宇宙と言うのは解明し開拓していく対象なんですよね。ところが日本人にとって宇宙というのは神秘とロマンですよね。その違いが番組にも出てくる。最近の日本のプラネタリウムの傾向として、迫力のあるCGを取り入れるだけでなく、星空のリアリティーを追求するような方向にハードが進化していることでしょうか。緻密で繊細な日本人らしいアプローチだと思います。ただ、そのハードを活かしきれているかと言うと、まだまだだと思います。

デジタルスカイ2

4. 世界最新・最強のデジタルプラネタリウム「デジタルスカイ2」について

プラネタリウムには光学式プラネタリウムとデジタルプラネタリウムというのがあって、光学式プラネタリウムというのは、地上から見た星を再現する事が出来るものなんですね。ところがやがてコンピュータが進化して「デジタルプラネタリウム」というのが出てきた。それはコンピュータグラフィックで星を映すというものだったんですが、光学式プラネタリウムと違ってCGですから、3Dで再現すれば宇宙空間を自由に移動する事が出来る。
ただし、当時のデジタルプラネタリウムで再現できる宇宙というのはせいぜい1千光年くらいのものなんですが、宇宙の大きさは137億光年もあるんです。そのスケールから考えると、従来ものもでは全然足りない訳ですよ。だって「千円と137億円」てのはエライ違いでしょ(笑)? その限界を超えるには「デジタルユニバース」の登場を待つ必要があったんです。

「デジタルユニバース」とはどういった物なんですか?

デジタルプラネタリウムのソフトウェア『デジタルスカイ2』の機能を拡張する全宇宙のデータセットです。例えばカーナビに新しいデータディスクを入れるともっとたくさんのデータが出てくるというように。昔のカーナビだったら関東地方だけだったかも知れない。それが新しいデータディスクを入れる事で日本中どころか全世界中どこでも使えるカーナビになった。っていうそのくらいの進歩なんですよ。その全宇宙のデータセット、それが「デジタルユニバース」。最初の質問に戻りますが、「デジタルスカイ2」というのは、全宇宙を旅する事の出来る最初のデジタルプラネタリウム。それを日本で最初に導入したのが、この「葛飾区郷土と天文の博物館」ということです。

地球に帰れない!

5.スケールにこだわる理由はなんですか?

そうですね。現代の進歩した天文学を表現するのに必要だと思うからです。「デジタルスカイ2」は2006年に導入して2007年に公開しました。日本では初めてですから、私も最初のころはよく宇宙で迷子になりましたよ(笑)。南十字星の遥か彼方で迷子になって地球に帰れなくなった! どうしよう! って途方に暮れる…なんて経験、これまでのプラネタリウム関係者はきっと体験しなかったことでしょうね(笑)。

上映するプログラムというのが、「すべてオリジナルで生解説」というのがこちらの特徴ですよね。

そうです。こだわりです。ひとつの作品を完成させるまでに要する期間は番組にもよりますが6ヶ月くらいかけて作る物もあれば3ヶ月くらいで作る物もあります。

生解説にこだわるのはどうしてですか?

プラネタリウムの一番の臨場感って何かって言うと、「そこで一緒に星を見ている」という一体感だと思うんです。その一体感を持たせてくれるのが、その場で星の魅力を語っている解説者だと思ってるんです。生であれば色んなアドリブが出来るし。どんどん内容を変えていける。プラネタリウムっていうのは解説者と観客が共有する時間と空間である、というのが僕のイメージ。さらに言えば、その解説者が星や宇宙の魅力を知っている人であること。星や宇宙の魅力を知っている人がその場で語る以上の臨場感ってないと思いますよ。

また、まじめ一辺倒ではなくコミカルでユーモアのある解説が印象的でした。最初の「携帯電話の電源をお切りください」のアナウンスひとつとっても「今から宇宙に旅立ちます。宇宙は圏外なので今のうちに電源をお切りください」という。この小さな工夫が観客にとっては一層宇宙の旅を楽しめることになるのですね。

そうですね。それともうひとつ、臨場感ということですごくこだわっているのは、一度プラネタリウムをスタートさせたら、もうそこが「現実」なんだ、ということです。

どういうことでしょう?

要は、木星の映像がバーンと出てきました。これに対して「今映しているのは木星のCGです」なんて言ったら絶対アウトでしょ。「木星にやってきました」って言わないとおかしいわけです。でもそれやっちゃうプラネタリウムって結構あるんですね。機械の性能の良さを強調した解説なんかもありますが、それってタネを明かしながら手品やってるようなものですよ。基本的には自分もその世界にいる、その世界に入り込んでいるという感覚で話をするようにしています。

番組制作の裏側

6.番組にはどういった人が関わって、どのように制作は進行していくのですか?

天文のスタッフで「どういう番組にするのか」「どんな映像素材が必要なのか」などをある程度固めた状態で、外部のプロダクションやクリエーターの方を入れて制作に入ります。普通のプラネタリウムですと、番組制作会社に番組のカタログを見せてもらって「今度はこれにしますので入れてください」、もしくは「○○というテーマで番組作ってください」と投げるかのいずれかなんですが、うちの場合は「企画」「シナリオ」「演出案」全部こちらで作ります。制作会社には映像素材の手配、それから音の素材の制作などをお願いしています。

これまでにどのくらいの数の番組を制作されたんですか?

季節ものは年間4本作ります。これまで20年間あるわけですから80本は作ってますよね。その他に音楽番組やコンサートだのいうものを足していくと40本くらいは作ってるんじゃないですか。だからトータルでは120~130作パッケージとしては作っていると思います。

その中で特に思い入れのある作品はありますか?

そうですね。ひとつは「かつしかから宇宙へ」という番組ですね。ここをリニューアルしたときにデジタルユニバースを初めて導入し、その時にやりたかったことがひとつあったんです。それはずーっと昔からやりたかったこと。小学校3年生の時の自分の感じたあのワクワクをあのドームで表現したい。「自分たちがいるこの場所が宇宙なんだよ」ということを表現したい。そういう想いで制作したのが「かつしかから宇宙へ」なんですよ。リニューアルのときの最初の番組です。その番組は今でもすごく人気で看板番組になっていて、時々アンコール上映しています。

作り続けること

7.スキルアップのために努力していることはありますか?

とにかく「作り続けること」。それに勝るものはないと思います。とにかく色々なことを試みて、どんどん作りながら前に進む。それがスキルアップでは大事なことではないでしょうか。後は、感性を磨くようなことも必要です。後は本物の星空を見上げて感動する心を持ち続けることですよね。八ヶ岳の麓に友達と観測所を作ったんですよ。そういうところに行って本物の星を見ておかないと、解説もなんだか嘘っぽくなっちゃうんですよね。

ライターとプロデューサー

8.シナリオライターとプロデューサーの違いはなんでしょう?

基本的にはプロダクションがあって、プロデューサー、あるいはクライアントが作りたい番組を考えて、シナリオライターはそれに沿ったシナリオを作る関係です。だからシナリオライターが自分の作りたい番組を作るのは難しいと思います。

では、プラネタリウムの番組を作りたい、あるいはシナリオライターを志している人にはどのような道が考えられますか?

外部のプロダクションに入るか、プラネタリウムメーカーに入るかですね。ところが外部のプロダクションの場合、プラネタリウムだけをやっているところは少なくて、CMや企業向けのビデオのパッケージも作っていたりしますけど。

クリスマスイベントの見どころ

9.今年のクリスマスコンサートの見どころを教えて下さい

このイベントは、3年毎に出演するアーティストが変えるようにしてるんですけど、今回はその新しいアーティストにとって最初のコンサートになります。今回は一般公募で募集をしたんですけど、それで選んだのが女の子のバンドなんですよ。20代の女性二人組でヴォーカルとピアノ。デモを聞いて驚いたのは、歌がすごい上手いんですよ。歌唱力が。これまではインストゥルメンタルだったから、今回は歌で味わってもらいたい。また、プラネタリウムは昔の星空を再現することが出来るんですけど、イエスキリストが誕生するのを告げた星というを実際にプラネタリウムで再現する、ということをやろうと考えています。なお、コンサートは定員165名で応募締め切りは12月3日(土)必着となっています。(電子申請のページはコチラ

とても楽しみですね。本日はお忙しい中ありがとうございました!

(編集後記)
私は個人的にも「プラネタリウムフリーク」。数年前にNYで見たプラネタリウムは想像を超えるもので、解説者にハリウッドの俳優を起用するなど、それこそ「エンターテイメント」の域でした。それまで、プラネタリウムと言えば「冬の星空は…」「星座にまつわる神話は…」など、子供向けで教育っぽいイメージだったものが一新されました。帰国して改めて日本のプラネタリウムを見ましたが、エンターテイメント性には程遠い「ガラパゴス」状態。それが、こちらのプラネタリウムを見て驚きました。「日本のプラネタリウムもここまで来たか!」と飛び上がるような気持ちでした。星や天文に興味がなくても十分にエンターテイメントとして楽しめる作品ばかり。この機会にぜひ一度足を運ばれてはいかがでしょう?
(編集部のオススメの本/物/場所)

・同館の天文ボランティア活動。現在100名(16歳~72歳)在籍しており、引き続き募集中!

 

interview&text 高良優希

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