物語.4

そういえば、付き合っているのに「遠い」という理由だけで勇一の部屋には行かなかった。おかしい話かもしれないが、私の仕事が朝早いこと、乗換えが面倒なことなどを加味し、部屋で会う時はいつも私の部屋だった。

おかげでデートの時に購入する謎の雑貨類は、全て私の部屋に置かれた。

まぁ、引っ越すにあたって勇一曰“狭くなるから”と言う理由でほぼ捨ててしまったのだけれど…。

「やっとついたよ。さっさと荷物だけ置いて飯食いにいこう」

「うん、あ、4階なのに505号室なの?」

「え?あ、そうだね。特に気にしなかったけど、日本人は4の字に抵抗があるんじゃないかな」

「そうかもしれないけど…。こんな都市伝説的なマンションが実在するとはね」

「あ。部屋のどこかにお札とかなかったの」

「そういえば、ブレーカーのあたりに貼ってあったかも」

「え!?恐っ!私帰る!」

「ウソだよ。沙織、単純すぎるって。しかもどこに帰んのさ」

「う、確かに…」

ふざけているだけなのだろうが、こうやっていつも私を騙す勇一だけに、たまに言っていることが嘘か本当か分からなくなって不安になる。

「ま、入って、入って」

「お邪魔します」

ほど良い重みの引き戸から見える部屋は、まるでパリが縮小したような空間が広がっていた。

「うわっ、お洒落すぎ!落ち着かない!」

「そうかな?元々設置されていたインテリアを工夫して使ってるんだけどな」

まず、キッチンが凄い。

工場のような作業台に、所々アンティーク感漂う木材の収納、ちょっとした薄めのグリーンのタイルもパリのアパルトマン風だ。

「これ、まるでインテリア雑誌に出てくる部屋じゃん!こういった部屋に住んでいる人って実在するんだ」

「何となく棘がある言い方なんだけど…」

そう、こういったセンスが自分には欠落している分、私はただ、僻んでいるだけなのだ。性格上、素直に感動できないので、お洒落な人にはいつもこういった対応になってしまう。

「で、でも、すっごく素敵な生活ができそうだし、すっごい楽しみ!」

非常に陳腐な私の弁解を聞いた勇一は、荷物を片付けながら微笑んでいるだけだった。

素敵な物には興味はあるのだけれど、いざ自分で探したり集めたりするのは億劫でだし、何から買えば良いのかが分からない。

その点、勇一はしっかりと“そのこと”に対してはこだわりがあるので、私なんかは感心を通り越して尊敬しているのだ。

「とにかく今日からは二人で住むんだし、ちょっとづつ必要な物を増やしていこう」

「新しいおでん鍋も買うの?」

「そうだね、ル・クルーゼで良いんじゃない?」

この発想は自分にはなかった。

とにかく、全てが一新しそうだな。私は今からの生活を妄想しつつ、にやけが止まらぬ自分の顔を何故か撫でていた。

つづく

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