アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 5

5層の相似形の方形壇と同心円状の円形壇が、均整のとれたバランスを確保する
ボロブドゥール

~ インドネシア ボロブドゥール 1~

日本は、北海道、本州、四国、九州を中心とする無数の島からなる島国だ。東南アジアの地域
にも、数々の島々が国土を構成する国がある。その一つのインドネシアは、18000を超え
る世界最多の島嶼を抱える島国だ。赤道をまたぎ、東西には5110キロに及ぶ海洋国家だ。
各々の島は隣接する島や、遠くインドや中国の影響を受けながら、独自の歴史や文化を育んで
きた。第二次世界大戦後はジャワ島北西部のジャカルタを中心に、近代化が進むが、同じ島の
中部に位置するジョグジャカルタでは古都としての伝統が守り続けられている。

ジョグジャカルタから西北40キロのヤシの樹海が広がるケドゥ盆地で、1814年、当時の
ジャワ総督代理を務めていたイギリス人のトーマス・ラッフルズらが、密林の中に埋もれる巨
大な遺跡を発見した。近くのムラピ山の火山灰などで覆われた遺跡が発掘され、世界最大級の
仏教寺院が姿を現した。今では世界遺産に登録されるボロブドゥール遺跡だ。

ボロブドゥールの造営は、8世紀半ばから9世紀前半にジャワ島中部を治めたシャイレーンド
ラ朝によって行われた。当時このあたりには、ヒンドゥー教を奉ずるサンジャヤ家と、大乗仏
教に帰依するシャイレーンドラ家が互いに権勢を誇っていた。シャイレーンドラ家のダルマト
ゥンガ王は775年頃、多羅菩薩ターラを祀るための寺院の建造を始めた。それに次ぐサング
ラーマグナンジャヤ王時代の792年に、第一期の工事が終了した。さらにその後のサマラト
ゥンガ王の治世下の824年頃、寺院の工事が再び行われ833年前後まで増築が実施され
た。

遺跡は、一年中噴煙を巻き上げるインドネシアで最も活動的な火山のムラピ山などの山々に囲
まれた平原の中央に、総面積約1.5万平方メートルの巨大な敷地内をもつ。直径約50メ
ートルの天然の丘に盛土し、100万個を超える安山岩や粘板岩のブロックを接着剤など使う
ことなく積み上げ、高さ33.5メートルの壮大な寺院を完成した。

一辺約115メートルの方形の基壇に、9層の回廊をもつピラミッド状の構造をもっている。
基壇と相似形をなす5層の方形壇、その上に同心円状の3層の円形壇が積み重なっている。基
壇、方形壇、円形壇の高さは、4:6:9の比率で垂直的な構成を形作る。相似形による方形
壇、同心円状の円形壇の平面構成に立体構造が加わり、幾何学的に均整のとれたバランスと安
定感を産み出している。

大きく3つの部分に分かれる構造は、仏教世界における三界を表現すると考えられている。基
壇の「カマダトゥ」は、食欲、淫欲、財欲などの欲望にとらわれた生物が住む六欲天の「欲
界」を表し、方形壇の「ルパダトゥ」は、「欲界」での食欲と淫欲の2つの欲望を超越しなが

ら、情欲や色欲からは解き放たれることがない有情が宿る世界「色界」を表している。そし
て、円形壇の「アルパダトゥ」は、欲望からも物質的条件からも超越し、ただ精神作用にのみ
が住む世界「無色界」を象徴している。

最下部の基壇から、方形壇、円形壇を登っていくに従って、人間界の欲望や罪悪に満ちた世界
から、禅定に達した世界に飛翔するとみなされる。訪れた人は階段を上に登ることによって、
煩悩を捨てた涅槃の境地への解脱を疑似体験できる仕組みになっている。

ボロブドゥールは仏教寺院として建立されたため、構造そのものにも宗教的な価値をもたせて
はいるが、堂々とした建築には宗教性を超えた人間の美意識が探求されているといえる。

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