アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 6

レリーフや彫刻のアンサンブルとなっているボロブドゥールを支える5層の方形壇

~ インドネシア ボロブドゥール 2~

東南アジアの熱帯地域に浮かぶジャワ島の中部には、濃い緑のヤシの密林に囲まれ、ボロブドゥールが青空に向かってピラミッド状に崛起している。天然の丘に、基壇と相似形をなす5層の方形壇と同心円状の3層の円形壇が、立体的で安定感をもった構造を形作る。

堂々とした構造物を下部で支える方形壇には、各層に幅2メートルの露天の回廊が巡らされている。訪れた人は、総延長5キロに及ぶ回廊を時計回りの方向に歩きながら、上に登って行くことになる。回廊の両側には、仏教の説話や経典に基づくレリーフが彫り刻まれ、1460面ものレリーフがずらりと並ぶ。レリーフに登場する人物は、釈迦をはじめとして菩薩、王族、兵士、庶民など1万人を超えると言われている。参詣者は回廊を周回し、進行方向の右側に展開する説話の意味を読み解きながら歩くのだ。

最下層の第1回廊には、釈尊の生誕からベナレスでの説法までの生涯を表わした仏伝ラリタヴィスタラ「方広大荘厳経」が描かれる。仏陀降誕以前の図、神々への地上降誕告知の図、マーヤー妃の胎内への入胎の図、ルンビニの園における降誕の図、シッダールタ太子の教育の図、貧、病、死、苦行との決定的な遭遇「四門出遊」の図、太子出城の図、剃髪の図、魔王マーラの軍勢の攻撃の図、マーラの娘の誘惑の図、ベナレス到着と説法「初天法輪」の図など、おびただしい数のパネルが延々と続く。東面から始まるストーリーを一巡し、一つの層の浮彫りを読み終える場所が、巡廻を始めた最初の位置だ。

そこから上の層に向かうために、とても急な階段を上る。第1回廊に続く、第2、第3回廊には、善財童子の巡礼の物語ガンダブヤーハ「華厳経入法界品」、そして、第4回廊には、華厳経の末尾を飾るバドゥラジャリイ「普賢行願讃」が描かれている。4つの回廊全体に、長大な絵巻物が展開する。各々のパネルの中の人物の表情や仕草は、リアルで精緻に彫り刻まれ、描かれた人々の息づかいが聞こえてくるような錯覚に襲われる。丸みを帯びたおうとつは、素材の石が本来もっている硬さからは到底考えられない、柔らかさや温かさを醸し出している。約1300年前にこの地域に暮らした職人たちの卓越した技術を窺い知ることができる。

回廊の壁面には、ぎっしりとレリーフが刻まれ一方、壁龕には432体の仏像が安置されている。方形壇の4つの各面で、面ごとに異なった印相を結ぶ。東面には触地印の仏アクショービヤ「阿閦如来」、南面には施与印の仏ラトナ・サンバヴァ「宝生如来」、西面には禅定印の仏アミターバ「阿弥陀如来」、北面には施無畏印の仏アモーガシッデイ「不空成就如来」が、熱帯の密林の方向に視線を向けている。いずれの仏像も一石造りによって等身大に彫られている。肩や胸のふくらみは緩やかな曲線によって表現され、仏像全体に穏やかで親しみやすい雰囲気を漂わせている。石の素材の中に人間の体温の温もりが注ぎ込まれているかのようだ。

ボロブドゥールは、最下層の基壇は一辺124メートル、高さ42メートルに及ぶピラミッド状の壮大な建造物だ。この巨大なモニュメントを構成する回廊は、レリーフや仏像で埋め尽くされ、遺跡全体を仏教によって統一された世界観と宇宙観で包みこんでいる。途方もないスケールの構造物は、細部に刻み込まれたレリーフや彫刻のアンサンブルとなっているのだ。インドのグプタ朝から持ち込まれた宗教観と技術に磨きがかけられ、ジャワ島ならではの表現を実現しているのだ。

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