アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 7

同心円を描くストゥーパを周回しながら無の世界に誘う3層の円形壇

~ インドネシア ボロブドゥール 3~

世界各地では様々な宗教が信仰されている。海に囲まれたジャワ島の人々は、船を使って盛んに海外との交流を行い、様々な文化を取り入れてきた。島に暮らす人々は、長い歴史の中で、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教などを代わる代わる選択しながら信仰してきた。

ジャワ島中部の台地に聳えるボロブドゥールは、8世紀半ばから9世紀に大乗仏教を奉じるシャイレーンドラ家によって建造された仏教の寺院だ。ピラミッド状の構造をもつ巨大な建造物は、下部に5層の方形壇、上部に3層の円形壇によって構成され、堂々とした安定感をもっている。方形壇には、仏教の説話や経典に基づく夥しい数のレリーフや仏像が設置され、下層部から上層部に向かって長大な絵巻物が展開する。また円形壇には、仏教の象徴的なモニュメントが並ぶ。

3層の円形壇には、全部で72基の釣鐘型のストゥーパが林立する。一辺約23センチの石のブロックが漆喰などの接着剤を全く使うことなく、目透かし格子状に積み上げられる。ストゥーパは、釈迦が荼毘に付された後の遺骨や遺品を納めた聖建造物のことだ。聖なる遺骨を納めることによって、モニュメント全体に象徴的な息吹を吹き込んでいる。

円形壇では壁や柱など、視界を遮るものがなく、周囲には濃い緑色をした熱帯の密林の光景が広がり、開放感に満ち溢れる。3層の円形壇の中央のポイントを中心として、3つの同心円を描くようにストゥーパが規律正しく建ち並んでいるのだ。

最も大きな同心円を描く第1の円形壇には、32基のストゥーパが最外周を形作る。基部にふくよかな膨らみをもたせた釣鐘状の側面に、菱形の目透かし格子が施され、正方形の頂華の台座をもつ構造だ。揺らぐことのない安定感と穏やかな空気をこの空間に包み込んでいるかのようだ。

第2の円形壇には24基のストゥーパが並び、目透かし格子や頂華の台座は、第1の円形壇と同じ形をしている。そして、第3の円形壇には16基のストゥーパが最内周を構成する。その構造は、第1、第2の円形壇のものとは趣を異にしており、格子の開口部は正方形、頂華の台座は八角形となっている。菱形の格子は不安定な俗界の人の心を意味し、正方形の格子は安定した賢者の心を象徴している。従って訪れた人は、第1層から第3層に足を進めることによって、俗界から賢者の心へと精神が清められる。

3つの円周を形成する合計72基のストゥーパの内部には、各々にベナレスの説法で転法輪を象徴する釈迦如来座像が安置される。格子窓から拝むことができる姿は、両手を胸の前に上げ、両方の薬指を互いに触れる印を結ぶ転法輪印を示している。このストゥーパの中の仏像に触ると幸せになれると言い伝えられる。女性は仏像の右足、男性は仏像の右手に触れれば幸せになると言われ、訪れた人は格子から思い思いの姿で格子窓から手を差し込んでいる。

そして、3つの円周を描くストゥーパの中央には、巨大なストゥーパが堂々と聳え立つ。周囲の72基と同様の釣鐘の形をしているが、側面に格子窓は施されていない。第1から第3の円形壇に歩みを進めるに従って、俗界から賢者の心へと清められた精神は、中心点で「無の世界」に収束することになる。内部は空洞となっており、大乗仏教の真髄である「空」の思想が反映されている。

世界各地に残っている遺跡には、建造当時にその地域に暮らした人々の生活習慣や価値観が漲っている。ボロブドゥールには、大乗仏教を信仰した人々の深い精神性と美意識が結実しているのだ。

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