物語.6

それから半年ほどたった2年前の11月。

久しぶりに勇一からメールがあった。

“お久しぶりです!まだ、音楽やってるんですか?久しぶりに時間があったら飲みませんか?”

他愛の無い内容のメールであったものの、私はそのメールがかなり嬉しかった。

この時期、周りの友人たちは彼氏を作らない私に苛立ちを覚えていたらしく、食事をする度に新しい男性を紹介された。

無理矢理ペアリングされてしまうので、その場において二人きりで会う段取りを振られてしまうと、なかなか断れない状況になってしまうのだ。

友人の手前、一度は二人きりで食事をするのだが、どうも物足りない。

普段聞いている音楽の相違、苦手なファッションセンス、何となく危なげの無い平穏な暮らしぶり…。

とにかく、私の心を揺さぶる人は表れることは無く、溜め息をついた後に、ふと考えてしまうのが勇一のことだった。

スラっとした華奢な体に色白の肌、長め目の前髪から覗く瞑らな瞳、そして清潔感のあるシンプルなファッション。

完全に勇一に恋をしている自分に気付いてしまったのだ。

しかし、今更こちらから会おう、というのも気が引けてしまうし、もし会えたとしても彼女ができしまっていたら…。こう思い込んでしまうと、とてもじゃないが自分から動くことはできなかった。

そんな状況だったこともあり、このメールには二つ返事で返信し、勇一と飲みにいくことを決めた。

久しぶりに会う勇一はあの頃とは、大して変わっていなかったが、彼に対する気持ちが180度変わっていたため、その日発する全ての言葉が吟味されていた。

どうも勇一は改めてLa’sのThere she goesについてハマっているらしい。
歌詞の内容はドラッグのことでは無くて、きっと振られた女性のことを歌っているんだ、と力説していた。

確かにメロディが美しい分、そうであってほしいとは私も思っていた。

「やっぱり楽しい」勇一の出す雰囲気があまりにも優しすぎて、いつの間にか清楚な印象を振る舞っていた仮面は前半戦に剥がれ落ち、終止げらげら笑い転げてしまっていた。

オーガニックワインを専門に扱うカジュアルビストロだったため、ボトルが低価格で空けられる気軽さにも甘えてしまい、久しぶりに大暴走した。

気付くと夜中の3時、喉が砂漠のようにカラッからになってしまっていたので、水を飲みたいと本能で感じた。

「うぅ…、水…」勝手に口から出た言葉を放った瞬間、私は勇一に抱きついていることに気が付いた。しかも私の部屋の玄関で。

「あ…。でも、コレって酔った勢いで告白してOKになった結果なのかな…」

自分のポジティブ思考には驚きながらも、水を飲んだ後、先程の格好と全く同じ格好に落ち着いた。

次の日の朝、勇一から聞いた話によると、飲み直そうと私が家に誘い、どうやらその玄関で彼が私に告白したらしい。

私はそれを了解した後、ボロボロ泣き崩れてしまい、仕舞いには爆睡してしまった。では何故勇一は抱きついていたのだろう。

ま、悪い気はしないけど。頭が割れそうになりながらも、胸は充実感で一杯になっていた。

懸命に荷物を片付けたおかげか、空が暗くなる前にほぼ終了していた。

「よし。大体片付いたしさ、ご飯を食べにいきましょうかね、沙織先生」

「あ、はいはいはい!」

「はいはいはい」

二人にしかわからない意味不明なやりとりが終わった後、私たちは軽やかにマンションを出た。

つづく

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