「両切り煙草奇譚」

煙草値上げによって煙とも縁遠くなってしまった、値上がる前日までチムニーのように口から煙をたなびかせ身体の生気を取り戻していたのも遙か彼方。

知人の殆どが値上げ関係なくヤニとは無縁者多く、忘憂するときは多少ながらも気まずい思いをしつつ吸っていた。

それをどこから聞きつけたのか分からないが、たちどころに友人たちはこちらの禁煙に感嘆の声を上げ、よくぞ止めたとお褒めの言葉が飛び込んでくる。

冗談じゃない、禁煙したのではない、懐が言うことをきいてくれないから止めただけのこと。

正直、懐状態で止めるなんて想像もしていなかった、強い意志の下で止めた連中は鼻高々だろうよ。

そんな中、禁煙なるものかと輸入煙草を愛飲している勇士が一人いる。

部屋にはワンカートンが鎮座している、それを見る度、ひとつぐらい頂戴しても分からないだろうという悪魔のささやきが私を襲う。

真人間だと思っていたのにやはり私にも悪魔が潜んでいた、悪魔の化身は欲望の牙をぐっと抑え何事もなかったように勇士の紫煙の行方を眺めていた。

つい最近まで鳩の絵柄の煙草を愛飲していた、それもフィルター付きの軽いものだ。昔は両切りの煙草をこよなく愛し、缶を机に置き自由な時を過ごしていた。

両切りの煙草はチョコレートを少し燻したような香りがした、その香りに似た煙草を嗜好する叔父がロンドン駐在の折りに買ってきてくれたことがある。

その叔父もまた鳩の絵柄の両切りを愛飲していた、銀紙に包まれた 10本入りの煙草、その銀紙を真ん中に折り返し、折り紙の兜を折るような手順で畳み一本を取り出す。

両切りはマッチに限る、火に直接点けるのではなくかざす感じで点けると紙の臭いも消えてマイルドになるのだ。

甘い香りの紫煙と共にその煙草を街角で見かけたりすると、知り合いでもないのにどこか同志のような気分になるから不思議だ。

ロンドンで買ってきてくれた煙草は「 Senior Service」という銘柄、パッケージの真ん中に錨の絵柄が付いている、この煙草も両切りで、鳩と勘違いするほどの香しい香りがする、それも三十年前の話しである。

もしかすると鳩絵柄の煙草は、 Senior Serviceの真似をしたのかもしれない。

残念なことに日本では販売していない、当時手に入れたくて銀座・六本木・新宿と輸入煙草店を歩き回ったことが懐かしい。

この一枚の写真は、いつかまた「のろし」をあげたいと思い記念に撮っておいたものだ。

本来嗜好品である煙草…嫌煙権が強大な力を持ち、たちまち街はスケルトンの箱へ喫煙者たちを追いやった、そして値上げ。

煙草で犯罪なんて聞いたことがない、がアルコールはある、どうせなら煙も液体もこの世から消してしまえば良い、それが平等というものだ。

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