日本酒を購入したということもあり、私達の心は和食系に動いていた。
別に良い日本酒であれば、イタリアンやフレンチ系でも良いのだが、何となくサッパリした和食が欲しくなるものだ。
「せっかく良い日本酒が手に入ったんだしさ、今日は鍋にしないか?」
「そういえば…。その選択が何故か無かったわね。その線でいこう!」
恐らく、結構な音量だったに違いない。周囲の人間が数人チラッとこちらを見ていた。
「問題は海鮮か肉、どちらにするかね」
「どうせブログに上げるんだろ。ビジュアルなら鶏の水炊きが良いんじゃない」
「そうね。シンプルで、何故かスタイリッシュなイメージね」
「よく分からないけど、取り敢えず先に野菜を買っておくか」
酒屋から歩いていくと、和菓子や洋菓子にテナントが華やかになっていく。その度立ち止まっては、私たちは無駄にスイーツの新作チェックをし、結構な時間をかけてやっと野菜を販売するコーナーに辿り着いた。
「ここは基本的に無農薬だし、価格もそこまで高くないから嬉しいわ」
ここの店舗は、日本全国の農家と直接取引をしているのか、オーガニック特有のバブリーな値段設定は見られず、良心的な価格帯で購入できるオススメだ。
「何かさ、野菜に囲まれるとキレイになっていくような気がするよな」
「なにそれ。意味わかんない」
「いや、やっぱり食材であってもさ、良い物に囲まれると気持ちも嬉しくなるだろ?ましてや野菜だし、この感覚は絶対沙織も感じてるはずだよ」
「まぁ、分からないでも無いわ。嬉しくなる所だけね」
「ふんっ、ま、いいけど」
私は純粋で独特の感覚を持っている勇一が好きだ。だから芸術家みたい(私にとって)なよくわからない仕事で、お金が貰えるんだと思う。
私がこういった感覚の話をすると確実に脱線してしまうので、基本的に話は広げない。
「ま、勇一には野菜の美術館ってとこなのね」
「お、うまいね!」
「別に…」
その後も、早く買い物をすませようと必至で食材を吟味する私に、勇一は語り掛け続けていた。