物語.9

日本酒を購入したということもあり、私達の心は和食系に動いていた。

別に良い日本酒であれば、イタリアンやフレンチ系でも良いのだが、何となくサッパリした和食が欲しくなるものだ。

「せっかく良い日本酒が手に入ったんだしさ、今日は鍋にしないか?」

「そういえば…。その選択が何故か無かったわね。その線でいこう!」

恐らく、結構な音量だったに違いない。周囲の人間が数人チラッとこちらを見ていた。

「問題は海鮮か肉、どちらにするかね」

「どうせブログに上げるんだろ。ビジュアルなら鶏の水炊きが良いんじゃない」

「そうね。シンプルで、何故かスタイリッシュなイメージね」

「よく分からないけど、取り敢えず先に野菜を買っておくか」

酒屋から歩いていくと、和菓子や洋菓子にテナントが華やかになっていく。その度立ち止まっては、私たちは無駄にスイーツの新作チェックをし、結構な時間をかけてやっと野菜を販売するコーナーに辿り着いた。

「ここは基本的に無農薬だし、価格もそこまで高くないから嬉しいわ」

ここの店舗は、日本全国の農家と直接取引をしているのか、オーガニック特有のバブリーな値段設定は見られず、良心的な価格帯で購入できるオススメだ。

「何かさ、野菜に囲まれるとキレイになっていくような気がするよな」

「なにそれ。意味わかんない」

「いや、やっぱり食材であってもさ、良い物に囲まれると気持ちも嬉しくなるだろ?ましてや野菜だし、この感覚は絶対沙織も感じてるはずだよ」

「まぁ、分からないでも無いわ。嬉しくなる所だけね」

「ふんっ、ま、いいけど」

私は純粋で独特の感覚を持っている勇一が好きだ。だから芸術家みたい(私にとって)なよくわからない仕事で、お金が貰えるんだと思う。

私がこういった感覚の話をすると確実に脱線してしまうので、基本的に話は広げない。

「ま、勇一には野菜の美術館ってとこなのね」

「お、うまいね!」

「別に…」

その後も、早く買い物をすませようと必至で食材を吟味する私に、勇一は語り掛け続けていた。

つづく

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