水菜やキャベツにキノコ類を購入した私達は、そのまま精肉のコーナーへ向かっていった。
デパ地下と呼ばれる場所が異様に好きな私は、現在買い物をしているショッピングセンターの道路を挟んだ反対側に競合店に勤務する予定だ。
出来れば、暮れが迫ったこの時期、ライバル店の売り場展開をチェックしておきたかった。
「老舗の和食店みたいな場所は、おせちの予約チラシを置いているけれど、他のテナントは特に変わり無しね」
「まぁ、まだ一ヶ月あるしな。まだ、お客さんも年末モードには入ってないよ」
「そうね。クリスマスを挟んでからが本格的な年末だものね」
「沙織のとこはクリスマスなんかするの?」
「いや…。おでんだよ。クリスマスおでんって渋過ぎない?」
「あはは。でも、良いと思うよ。なんとなく洋食のイメージが強いだけでさ、寿司なんかは売れてるじゃん」
「そうね。和洋関係なく華やかさがキーポイントかも」
「とは言っても完全に畑違いだけどね」
「便乗してくる可能性を信じようよ」
「切に願いたいわね」
私はカタカナのイベントに滅法弱い、練り総菜店の運命を呪いながら目的のテナントを目指した。
お目当てのテナントに到着し、ショーケースを見るといつも思う。この精肉店は、本当に良い物が揃っている。
しかも産地も全てに表記されており、昨今の敏感な消費者達にとってみれば嬉しい配慮だ。
ちなみに今回、私達は博多風の水炊きを作るということで、骨付きのもも肉と鶏つくねを購入する予定だ。
「地鶏がいいね。やっぱり色が黄みがかってるからか、美味しそうに見える」
「これは名古屋コーチン?ちょっと割高だけれども…、まぁ外食したと思えばずっと安いもんね」
「そうそう。料理ができるって、結果的に経済的にも特するよな」
店員の顔が早く購入してくれ、と急かしているようにも見えたが、そこは知らないふりをして会話を続けた。
そろそろ良いかな、思い私は言った。
「じゃぁ、この骨付きのと鶏のひき肉を下さい」
瞬間に安堵の表情を見せた「清水」というネームプレートの店員は、なぜか50g分を双方におまけしてくれた。
このじらし作戦も案外使えるかもしれないな。
自分の小ささを再確認して嫌な気分になったが、生活のための良知恵だ、心にと言い聞かせ私達はテナントを後にした。