物語.10

水菜やキャベツにキノコ類を購入した私達は、そのまま精肉のコーナーへ向かっていった。

デパ地下と呼ばれる場所が異様に好きな私は、現在買い物をしているショッピングセンターの道路を挟んだ反対側に競合店に勤務する予定だ。

出来れば、暮れが迫ったこの時期、ライバル店の売り場展開をチェックしておきたかった。

「老舗の和食店みたいな場所は、おせちの予約チラシを置いているけれど、他のテナントは特に変わり無しね」

「まぁ、まだ一ヶ月あるしな。まだ、お客さんも年末モードには入ってないよ」

「そうね。クリスマスを挟んでからが本格的な年末だものね」

「沙織のとこはクリスマスなんかするの?」

「いや…。おでんだよ。クリスマスおでんって渋過ぎない?」

「あはは。でも、良いと思うよ。なんとなく洋食のイメージが強いだけでさ、寿司なんかは売れてるじゃん」

「そうね。和洋関係なく華やかさがキーポイントかも」

「とは言っても完全に畑違いだけどね」

「便乗してくる可能性を信じようよ」

「切に願いたいわね」

私はカタカナのイベントに滅法弱い、練り総菜店の運命を呪いながら目的のテナントを目指した。

お目当てのテナントに到着し、ショーケースを見るといつも思う。この精肉店は、本当に良い物が揃っている。

しかも産地も全てに表記されており、昨今の敏感な消費者達にとってみれば嬉しい配慮だ。

ちなみに今回、私達は博多風の水炊きを作るということで、骨付きのもも肉と鶏つくねを購入する予定だ。

「地鶏がいいね。やっぱり色が黄みがかってるからか、美味しそうに見える」

「これは名古屋コーチン?ちょっと割高だけれども…、まぁ外食したと思えばずっと安いもんね」

「そうそう。料理ができるって、結果的に経済的にも特するよな」

店員の顔が早く購入してくれ、と急かしているようにも見えたが、そこは知らないふりをして会話を続けた。

そろそろ良いかな、思い私は言った。

「じゃぁ、この骨付きのと鶏のひき肉を下さい」

瞬間に安堵の表情を見せた「清水」というネームプレートの店員は、なぜか50g分を双方におまけしてくれた。

このじらし作戦も案外使えるかもしれないな。

自分の小ささを再確認して嫌な気分になったが、生活のための良知恵だ、心にと言い聞かせ私達はテナントを後にした。

つづく

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