物語.11

水炊き用のメインの材料が揃い、私たちは併設されているスーパーで残りの材料を購入しに行った。これは高い、安い、と下らない討論をしながら買い物を終えた後、出口が目の前に出て来るフロアに向けて、エスカレーターで上った。

このショッピングセンターは出口が沢山あるので助かる。病棟モチーフのお化け屋敷のように、すぐ離脱できる感じが私には丁度良い。

「あ、もうイルミネーションが凄いね。私思うんだけど、不況だなんていって、こういうの無くなったら、ついにお終いって感じになりそう」

「あぁ、確かに。イルミネーションってキレイなだけじゃなくて頑張ろう、って何故か思うよ」

「この状況下でフラれた、とかいう暗黒のエピソードを持った人でなければ、嫌な人はいないでしょうね」

「キツいなそれ」

二子玉川はセレブの街として名を馳せているだけに、懐が暖かいファッショナブルな親子で溢れている。

不倫をされた挙げ句、旦那と資産を他の女に奪われた女性なんかは、絶対に足を踏み入れてはいけない場所である。

「まぁ、勇一がいなかったら私も荒んでたかもしれない」

「そうかな?沙織は1人でも生きていけそうだけどね」

「わかってないな。誰だって1人で生活はできるよ。でも独りでは生きれないの。わかる?」

「何となく…」

「もう。ま、いいけど」

「俺は沙織がいてくれないと困るよ」

「知ってる」

どうして恋人というのは、判りきったことを何度も確認し合うのかわからないが、言葉に出すのは大切だ、とルーマニア出身の友人が言っていたからこの行為は、間違ってはいないと思っている。

「いつか俺も、こういうイルミネーションのデザインしてみたいな」

「素敵。その場に集まっている人に自慢しちゃう」

「そういうのはヤメてくれよ」

「できたら、の話ね」

「そりゃそうだ」

きっと周囲の人間にはこの時の二人は、何よりも輝いて見えていたのだろう。私はそんなことをしみじみ感じていた。

つづく

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る