水炊き用のメインの材料が揃い、私たちは併設されているスーパーで残りの材料を購入しに行った。これは高い、安い、と下らない討論をしながら買い物を終えた後、出口が目の前に出て来るフロアに向けて、エスカレーターで上った。
このショッピングセンターは出口が沢山あるので助かる。病棟モチーフのお化け屋敷のように、すぐ離脱できる感じが私には丁度良い。
「あ、もうイルミネーションが凄いね。私思うんだけど、不況だなんていって、こういうの無くなったら、ついにお終いって感じになりそう」
「あぁ、確かに。イルミネーションってキレイなだけじゃなくて頑張ろう、って何故か思うよ」
「この状況下でフラれた、とかいう暗黒のエピソードを持った人でなければ、嫌な人はいないでしょうね」
「キツいなそれ」
二子玉川はセレブの街として名を馳せているだけに、懐が暖かいファッショナブルな親子で溢れている。
不倫をされた挙げ句、旦那と資産を他の女に奪われた女性なんかは、絶対に足を踏み入れてはいけない場所である。
「まぁ、勇一がいなかったら私も荒んでたかもしれない」
「そうかな?沙織は1人でも生きていけそうだけどね」
「わかってないな。誰だって1人で生活はできるよ。でも独りでは生きれないの。わかる?」
「何となく…」
「もう。ま、いいけど」
「俺は沙織がいてくれないと困るよ」
「知ってる」
どうして恋人というのは、判りきったことを何度も確認し合うのかわからないが、言葉に出すのは大切だ、とルーマニア出身の友人が言っていたからこの行為は、間違ってはいないと思っている。
「いつか俺も、こういうイルミネーションのデザインしてみたいな」
「素敵。その場に集まっている人に自慢しちゃう」
「そういうのはヤメてくれよ」
「できたら、の話ね」
「そりゃそうだ」
きっと周囲の人間にはこの時の二人は、何よりも輝いて見えていたのだろう。私はそんなことをしみじみ感じていた。