物語り.13

どうやら鶏肉は一度、別の鍋で煮て灰汁を取り出すらしい。面倒かもしれないが、この手間がおしゃれな料理人になるためのポイントだ。

しかも、鶏肉に下味を付けるために昆布や料理酒を加えて煮るとなお本格的である。

「このままで食べちゃいたいぐらいだけど…」

「その気持ちわかるね。俺なんて、こういう時に味見がてら食べ出して、無くなるパターン多いよ」

「もう本末転倒すぎるじゃん。あぁ、でも本当に美味しそう」

さすが良い鶏肉だ。ほど良い弾力があるし、第一、色から美味しさが伝わる。きっと噛んだ瞬間に、最上の肉汁が飛び出してくるのだろう。

「もちろん、この茹で汁は捨てずに土鍋に加えなきゃね」

「滋養強壮の効果アリだな」

「ねぇ、毎日、鶏肉以外食べなきゃ健康になるかな?」

「極端だぞ。バランスが大切だろ、そういうの」

「そうかな」

「偏食は良く無いな」

確かに偏食は良く無いし、すぐに飽きてしまうだろう。でも、こういう風に体に良い、と言われたら毎日でも摂取したくなるものだ。サプリメントを飲み続ける人はこういった感覚なのかもしれない。

「俺なんかさ、薬とか健康になるとか、言われているものを全部止めたら、風邪ひかなくなったもんね」

「本当なのそれ?人間が本来持っている自然治癒力が活性化したのかな」

「理由なんてわからないけど、とにかく健康ではある」

もしかしたら健康というのも、気にしすぎてもイケナイのかもしれない。そういえば、本部から来る営業の芦沢さんは20歳から800円以上の化粧水を買ってないと言っていた。それなのに、本当に肌が透き通ったようにキレイだ。

ドモホルンリンクルの試供品を頼もうとしている私とは大違いだが、断然私の方が毛穴が目立つ。学生の頃にバイト代で、高い化粧品を買いまくったツケが廻ってきているらしい。

「よし、沙織。もう食べれそうだね」

「あ、うん。鍋敷きテーブルに置いといて」

「了解」

私はかなり高温になった土鍋を近くにあったオーブンミトンで掴んだ。どうやらmarimekkoのミトンらしく、ウニッコと呼ばれる定番デザインが鮮やかなブルーでプリントされている。

「いつ買ったのこれ?」

「去年、沙織に貰ったんだけど…」

「あれ、そうだっけ…」

そろそろヤバいな、と感じながら私はテーブルに土鍋を持っていった。

つづく

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