アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 13

シンプルな構造と配色に気高い品格を漂わせるモスク

~ マレーシア ジョホール・バル アブ・バカール・モスク ~

世界各地では様々な宗教が信仰されている。仏教、キリスト教、イスラム教の3つの宗教が世界三大宗教に数えられることがある。イスラム教は、日本人にとって馴染み深い宗教とは言えないが、世界的には8世紀に誕生して以来、信者の数を減少させることなく、年々増加していると言われている。信仰されている地域は、遠く離れた中近東の限られたエリアをイメージしてしまいがちだが、私たち日本人にとって身近なアジア地域にもイスラム教を信仰する人が数多く存在する。

インドネシアが、東南アジア地域で最大のイスラム教国家だが、その隣国のマレーシアも、古くからそれに次ぐ数のイスラム教徒が暮らしている。

マレーシアの最南端、シンガポールと国境を接する国内第2の都市ジョホール・バルには、今でもこの地域の宗教活動をリードするスルタンが存在する。ジョホール水道を見下ろす小高い丘の上にはスルタン王宮が建ち、長い年月の間、様々な行事が開催され続けてきた。王宮の裏手にはイスラム教徒にとっての礼拝施設、アブ・バカール・モスクが建つ。丘の上に並んで建つスルタン王宮とアブ・バカール・モスクは、ジョホール・バルのシンボルとなっている。

アブ・バカール・モスクは19世紀の後半、この地域を治めていたスルタンのアブ・バカールによって、1892年から8年の歳月を費やして建造された。建物は乳白色一色に統一された壁に包まれ、柔らかな色彩のトーンが周囲に落ち着いた雰囲気と清潔感を漂わせている。白亜の建物を覆う屋根は、鮮やかな青色一色で構成され、建物全体は乳白色と青色の二色のコントラストのみのシンプルな配色となっている。直方体の建物に数本の塔が聳え、三角形の屋根が印象的な外観を築いている。マレーシア国内に数多く見られるモスクの中でも、「マレーシアで一番美しいモスク」とジョホールの人々は、アブ・バカール・モスクを称えている。

イスラム教世界では偶像崇拝が堅く禁じられており、イスラム教の建築物には華美な装飾が施されることはない。比較的単純な図形を繰り返す幾何学模様の装飾を施すことが大半だ。可視的な物質世界を超越して広がる無限のパターンが高い精神性を表現しているのだ。アラベスクはイスラム教の美的価値観が産んだ最高の装飾と言うことができるだろう。

アブ・バカール・モスクには、アラベスクなどのパターン化された装飾は施されていないが、単純な長方形や円形、直線と曲線を組合せた装飾が外壁に仄かなアクセントをつけている。虚飾を排除した空間には、純潔で気高い品格を備えているかのようだ。

建築や装飾に独特の特色を見せるイスラム教世界だが、日常生活においても特徴的な考え方をする習慣がある。人間は日常生活を営むうちに小さく汚れるとされている。そのため、礼拝堂に入るにはウドゥーを行って体を清めなければならない。アブ・バカール・モスクでは、礼拝堂に向かって長い直線状の廊下が作られ、その側面には一直線に水道の栓が並んでいる。側面のタイルに等間隔に身を清めるために不可欠の用具が設置されている。モスクに訪れた人々は一列に並んで体を清め、その後に祈りをするために礼拝堂に入っていくのだ。

アブ・バカール・モスクには、2000人もの人が入れるという広い礼拝堂が設けられている。様々なイスラム教の行事の際には、身を清め礼拝堂に向かう人々が長蛇の列を作ることだろう。モスクという建物ばかりではなく、訪れた人々も幾何学模様を構成する一員となるのだ。

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