Ricaよ、次はここへ行け…と夢枕に誰も立ってくれなかったけど、ある朝フト思い立って「久留米市草野」という小さな城下町へ向かった。
ここは江戸時代から大正時代の建物がいくつも点在して「伝統的町並み保存地区」に指定されている。
ちょっぴりノスタルジックな気分を満喫できる場所だ。
その他にも、紅葉の季節には櫨並木が真っ赤に色づき、その美しさにホレボレ。
さて、向かった先は「須佐能袁神社(主神は素戔鳴尊(スサノオノミコト))」。
ここは1197年(建久8年)、草野太郎永平(筑後国在国司・押領使)が、京都の八坂神社より勧請建立したと伝えられる。
現在の社殿楼門は1886年(明治19年)に竣工された、比較的新しい建物。
棟梁・彫工は村石繁蔵。
この繁さん(敬愛を含みこう呼ばせてもらう)の超絶仕事ぶりが、んもぅ、んもぅ、とコーフンして腰をフリフリしたくなるほど。
あまりの素晴らしさに、福岡県は1957年(昭和32年)本殿・拝殿・楼門を県の文化財に指定した。
ヨッシャ、じゃ、早速その繁さんの仕事ぶりを紹介しよう。
おっと、その前に鳥居の前でまずは一呼吸。全体を見渡して、神社にご挨拶、ご挨拶。
まずは石でできた鳥居の上を確認するところからスタートだ。
鳥居の額束(鳥居の真ん中に神社名)には、勢いがある龍が2匹上に向かっている。
鳥居をくぐる前に、まず鼻から息を大きく吸いフーーーッとお腹にためて、ためて、ためてプッハーーーッ(←息を吐いたトコね)。
空に向かう龍に、心配事を払ってもらうイメージで。
それを数回繰り返すと、神社の気が体に入って穏やかな気分になるハズ。
●ツルツル橋を渡れば、神様に会う準備完了
鳥居を抜けたらすぐに小さな太鼓橋(石橋)が視野に入る。
橋を渡る前に正面を眺めると、橋の両側に位置する宝珠と楼門屋根とのバランスが絶妙で、その奥には拝殿が小さく見える。
まるで絵画鑑賞しているような景色だ。
太鼓橋の弧の部分が、虹を渡って別世界へ行く気分にさせる。
この太鼓橋の石段がくせ者。
円に沿って作られているせいか、濡れてもいないのに滑って足を取られやすい。
雨や雪の場合はツルツル度アップ…神様に面会するにも一苦労だ。
手すりをしっかり握り、亀歩きをマスターする必要がある。
神社建立が明治時代は草履や下駄も多かっただろうし、何より急いで渡るものではないから、「歩きにくい」と思うのは現代人のワガママなのだろう。
もし、神様への面会時間を予約していたら、早目にお出かけしないと石橋に時間を取られ大幅遅刻の可能性アリ。
なんたって、スサノウノミコト様はやんちゃで有名。
少しでも遅刻したら、子分のオロチにお尻をかじられる。
余裕を持って予約しよう。
この橋を渡る行為の意味は、水の上を歩くと「身を清める」意味につながっている。
つまりは神様と会う前に心も体も浄化される仕組み。
誰が考えたか知らないけど、なんとまぁ無駄のない作りなのか。
もちろん、石橋を渡らず池の周囲を歩いて楼門に行くことも可能。
その時は、恵比寿様や牛がお出迎えしてくれるので、挨拶を忘れずに。
●彫り物パワー炸裂 橋を渡るとすぐに楼門がある。
まずは、鯱が棟と留蓋で建物を火災から守っているのをしっかりチェック。
そこから視線を落とすとキタキタキタ、繁さんの独壇場。何をどこから見ていいのかわからないくらい、物語が続いている。
翁、鳥、魚、鶴、亀、松、犀、象、龍、蓮などなど、彫れる場所はすべてやったるけんね、とあらゆるところに手抜きがない。
「オレを誉め称えるのだ~」なんて声さえも聞こえてきそう。
感動するのはそれだけではないのだ。
木材の適材適所の妙、コレにつきる。
木工制作に携わる人なら当たり前だろうが、木材の模様がピッタリ題材に合っている。
それはもう涙が出るくらいの感動モノで。
この龍は下から見上げるものだけど、この腹の部分をじっくり見ると板目がうろこのように見える。
横に線を一本彫っただけなのに、そこから立体感が生まれ見事な蛇腹が出来上がり。
たった一本の等高線のような模様が、繁さんの手にかかったら生き物の肌として生まれ変わるのだ。
それは、霊獣だけではなく垂木の組み合わせにも十分に力を発揮。
海の波を表す彫りの近くに、板目をうまく利用しこちらも躍動感のある波が空に近い場所で波打っている。
耳をすますと波の音が聞こえてくる。
それは大きくゆったりとしたザザザーーッ、波頭が幾重にも重なったものはザブザブザザーーン、素木で彩色など施していないのに波音がそこかしこから聞き取れるのだ。
●涙なくしては見られない、鬼のディフェンス 拝殿がまたすごいことになっている。
お参りする前にちょっと上を見ると、鬼が梁を咥えている姿にドッキリ。
これは建物を守るという意味らしい。
私的には「気持ちはわかるけど…」と、鬼に声をかけたい。
だって明治からずっとこの姿勢ですよ、誰とも会話できず。
龍とはアイコンタクトのみだろうし、誰もその役目を変わってあげようと言ってくれないだろうし。
繁さんもきつい仕事を鬼に託したものだ。きっと「キミしかいない!」、そう言って鬼を説得したんだろうなぁ。
律儀な鬼は「まぁ、そうかな。龍は屋根や手水などいろんな場所を守るのに忙しいし、ウサギはすぐに飽きそうだもんね。
亀は地道にできるけど、頑固すぎて龍と話しが合わない。
やっぱりオレがやるしかないか…」そう決断して100年以上アノ姿勢。
ありがとう、鬼!職人の繁さんからの注文も厳しかったハズ。
「大きく目を見開いて」「歯はむき出しでね」「恥ずかしがらずに、鼻の穴も正面に」「そうそう、邪を鼻息で追い返す勢いで」。
恐ろしい表情を作り出すのに、5時間はかかったと思う。
目立つ場所に鎮座しているわりには、気づかずお参りしている人も多いだろう。
ここに来たら上をじっくり見て、鬼のディフェンスを誉め称えてください。
心持ち暗い表情だけど、ソコはあえて触れず大人の対応で。
東北や関東と違い、装飾の多い神社は九州に少ないのだ。ここ「須佐能袁神社」は、その数少ない神社の中で一番と誉れ高い(Rica比)。鳥居をくぐった途端たたみ込むような彫り物づくし、どこで休憩していいのかわからない圧倒的な職人パワーの連続だ。神社を出る頃はグッタリ度マックスですが、彫り物満足度もハンパなし。北部九州にお見えの際は是非!
須佐能袁神社へのアクセス所在地 〒839-0835 福岡県久留米市草野町草野443-2
電話:0942-47-0531
アクセス 西鉄バス(25)番利用「草野上町」バス停下車 徒歩2分
またはJR筑後草野駅下車 徒歩5分