アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 15

緑の山間の中に龍が這うように建造された灰色の要塞の上をゆっくりと動くカラフルな帯

~ 中国 北京 万里の長城 八達嶺 ~

人類の技術開発は様々な分野に及び、地球を離れ宇宙に飛び出すことができるようになった。1969年7月16日、アメリカのケネディ宇宙センターから打ち上げられたアポロ11号は、人類初の月面着陸を成功させた。それに続いて、次々に日本人宇宙飛行士が、月面で生活するまでになった。このスピードで行くと、近い内に一般の人も宇宙旅行ができる時代が訪れるかもしれない。

中国の北京の郊外に作られた万里の長城は、かつて中国の教科書では、「宇宙から肉眼で見える唯一の建造物」と紹介されていた。2004年に、中国系アメリカ人のリロイ・チャオ飛行士が国際宇宙ステーションから、180ミリ望遠レンズを装着したデジタルカメラを用いて、万里の長城を画像に収めることに成功したが、肉眼では見ることはできなかったという。たとえ、宇宙ステーションの中の飛行士の瞳に像を結ばなかったとしても、万里の長城は人類史上まれに見る巨大な建造物であることに変わりはない。

北京の北部を東から西に、まるで龍が這うような形で横たわる。東端の老龍頭長城から西端の陽関に至るまで、全長約9000キロにも及ぶ要塞だ。赤道の長さ約4万キロと比較すると何と、地球の5分の1の長さをもっているのだ。「宇宙から肉眼で見える唯一の建造物」と言っても、大袈裟な表現とは言えない。

万里の長城は、紀元前221年に中国の統一を成し遂げた秦の始皇帝が、北方遊牧民族の侵入を防ぐために、防衛壁を築き始めたことに始まる。秦が滅びた後も長城の建設は続けられた。万里の長城の総延長が、中国の歴史を物語っているのだ。現在残っている建造物は、主に明の時代に造営されたものだと言われている。

北京から北に向かうといたる所で、長城の要塞を見ることができる。その中で最も整備されているのが、八達嶺長城だ。北京からの交通の便がよく、毎日のように数多くの人が訪れる。入口からは南北の山沿いに約3700メートルの壁が築かれている。

山の緑の中を灰色の石の壁が延々と続く。険しい山が天然の要塞を築いているように見えるが、漢民族の北方遊牧民に対する脅威が、さらに堅固な防波堤を築かせた。山のラインに沿って続く石の道は、灰色一色であるため無機質で冷たい印象を与える。目的が異民族の侵入を防ぐことだから、そこに暖かさなどあろうはずはない。自然の地形に沿って築かれ、創造的なデザインを施す箇所はないのだが、山の中にバランスのとれた構図を作りあげている。自然を利用した偶然のアートが完成しているのだ。

世界遺産に登録される中国屈指の観光スポットとなっているため毎日、夥しい数の人々が万里の長城を訪れる。要塞の上を綺麗に列になって、砦に向かって歩いていく。巨大な構造物の中で汗を流しながら歩く人間の姿は、実にちっぽけなものだ。遠くから人の流れをみていると、正に地を這うアリそのものだ。2000年近くの月日を費やして築き上げられた構造物は、人を軽く飲み込んでしまっているかのようだ。

ところが、列をなす人々が身に着けた服のカラフルな色彩が、灰色一色の石に彩りをもった帯を作る。人の歩く速度に従って、その彩りはゆっくりと変化する。アート制作の意図はもたないながら、自然に緩やかに変化するアートを築いている。

万里の長城がなければ、中国の歴史は変わっていたかもしれない。長年にわたって何億人もの中国の人々を守り続けた要塞は、中国の悠久の歴史を今に伝えながら、荘厳で美しい姿を見せている。

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