物語.14

テーブルの上には白濁したスープが煮え立っている土鍋が置かれる。

バランスの取れた具材の配置に「今回は成功だ」と私は核心していた。

実は、いくらなんでも水炊きだけ、というのも寂しいと思い適当に刺身の盛り合わせも購入していた。

脚が“ちょこん”と付いた長方形の皿に適当に盛られた鯛やスズキにヒラメなど、鮮度は微妙だったが、それを感じさせないほどに見た目は良かった。

「さ、早速ヴァージンロードを開けようぜ」

勇一の目は、発泡酒の力も借りて、よりギラツキを増している。私は日本酒の蓋を開け、勇一側に置かれるお猪口にそれを注いだ。

「じゃ、沙織の引っ越しを祝って」

「乾杯!」

ほのかに甘く、フルーティなその味は良い意味で日本酒らしさを感じず、いくらでも飲めてしまう危険なテイストだった。

「美味しすぎる!幸せ」

「刺身も旨いね。一応鮮魚専門コーナーで買っただけあるな」

「ま、半額だけどね」

どうしても貧乏性の私は“半額”のシールが貼られた食品に反応してしまう。世の中ではタイムセールなどと呼んでいるようだが、結局のところ売れ残さないための在庫処理なんだから、店側も、もっとえげつなくやってしまっても良い気がする。

「そう言えばさ、スーパーの半額の寿司のコーナー凄いよな」

「私は半額シールを持った鮮魚のスタッフが、一瞬ヒーローに見えるよ」

「おいおい…。まさか、待ってる派ってこと?」

「そうだよ。だって、割引の30分前にお寿司を買った人がさ、スーパーから自宅に着くまで30分かかるとするじゃん?んで、その人が購入した30分後に私が半額で買います。私はスーパーから1分の所に住んでいるいるとすれば、食べ始めるのは、ほぼ一緒」

「お、確かに。しかも、冷蔵されていることを考えていれば、先に購入した人の寿司は鮮度が落ちている…」

「すなわち、鮮度も価格も私の方が特なのよ」

「こりゃ、たまげた」

勇一はゲラゲラ笑っている。学生の頃、1000円で一週間を乗り切った私はスーパーの割引の事情に関してはうるさい。

「沙織、水炊きも最高だよ」

「ちょ、ちょっと、どさくさに紛れて全部食べないでよ!」

どうでも良い会話を楽しみながら、引っ越し初日の夜はのんびりと更けていった。

つづく

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