テーブルの上には白濁したスープが煮え立っている土鍋が置かれる。
バランスの取れた具材の配置に「今回は成功だ」と私は核心していた。
実は、いくらなんでも水炊きだけ、というのも寂しいと思い適当に刺身の盛り合わせも購入していた。
脚が“ちょこん”と付いた長方形の皿に適当に盛られた鯛やスズキにヒラメなど、鮮度は微妙だったが、それを感じさせないほどに見た目は良かった。
「さ、早速ヴァージンロードを開けようぜ」
勇一の目は、発泡酒の力も借りて、よりギラツキを増している。私は日本酒の蓋を開け、勇一側に置かれるお猪口にそれを注いだ。
「じゃ、沙織の引っ越しを祝って」
「乾杯!」
ほのかに甘く、フルーティなその味は良い意味で日本酒らしさを感じず、いくらでも飲めてしまう危険なテイストだった。
「美味しすぎる!幸せ」
「刺身も旨いね。一応鮮魚専門コーナーで買っただけあるな」
「ま、半額だけどね」
どうしても貧乏性の私は“半額”のシールが貼られた食品に反応してしまう。世の中ではタイムセールなどと呼んでいるようだが、結局のところ売れ残さないための在庫処理なんだから、店側も、もっとえげつなくやってしまっても良い気がする。
「そう言えばさ、スーパーの半額の寿司のコーナー凄いよな」
「私は半額シールを持った鮮魚のスタッフが、一瞬ヒーローに見えるよ」
「おいおい…。まさか、待ってる派ってこと?」
「そうだよ。だって、割引の30分前にお寿司を買った人がさ、スーパーから自宅に着くまで30分かかるとするじゃん?んで、その人が購入した30分後に私が半額で買います。私はスーパーから1分の所に住んでいるいるとすれば、食べ始めるのは、ほぼ一緒」
「お、確かに。しかも、冷蔵されていることを考えていれば、先に購入した人の寿司は鮮度が落ちている…」
「すなわち、鮮度も価格も私の方が特なのよ」
「こりゃ、たまげた」
勇一はゲラゲラ笑っている。学生の頃、1000円で一週間を乗り切った私はスーパーの割引の事情に関してはうるさい。
「沙織、水炊きも最高だよ」
「ちょ、ちょっと、どさくさに紛れて全部食べないでよ!」
どうでも良い会話を楽しみながら、引っ越し初日の夜はのんびりと更けていった。