物語.18

私の勤めている練り総菜店は、日本橋に本店を持っている老舗だ。素材の良さにこだわり、大量生産はできるだけせず、小規模な工場で良質な商品を販売することがモットーらしい。

そのため、直営店は都内しか無く、全国規模で展開はしていない。とはいえ、高級ながら本物の味のおでん種、という紹介で何度かマスコミに出たため、お取り寄せランキングなどにも常にランキングしている人気があるのだ。

今回、私が二子玉川店に転勤になったのは、ここの店長だった人が本部と揉めに揉めてクビになったからだそう。5年以上その人が居座ったポストに、新入りレベルの私が急に店長になるなんて、絶対裏があると思っているのだが、ここで詮索したところで状況も変わらないし、勇一との同棲のキッカケになったんだから、良しとした。

Photo by:Julien Haler

「うわ!広っ!さすが二子玉川…」

地下に下り、専門店売り場に着いた私は思わず声を漏らしてしまった。
今まで小さなデパ地下にいたので、その規模には少し嬉しくなった。

洋菓子売り場に和菓子売り場を通り過ぎ、惣菜を扱うフロアはこれまた扱う食品のジャンルでテナントが別れていた。

「どこだろ。もう、何か一回じゃ覚えられそうにないな」

キョロキョロしながら歩く私の、前から後ろから、開店準備に急ぐ店員が行き交っている。

「あら?どうしたの?大丈夫?」

「え?あ、あ私、今日から佐々木の店長に…」

「あ?噂の名取さん?若いわねぇ。私お店となりだから一緒に行きましょ」

ピンクが基調になった、割烹着風の制服がイマイチ似合っていない女性。どうも年は50歳代っぽいが、いかにもオバさんという雰囲気の人だった。

「あ、ありがとうございます…」

「わたしは石塚って言うの。隣の清水でやってるのよ」

「清水さんも入っているんですか?私たまに買います!」

「あら。嬉しい。今度はウチで買ってね。あははは!」

「はぁ…」

清水とは佃煮で有名な老舗で、前にいた店で良く購入した。
定番だがアサリの佃煮が逸品で、よくお茶漬けにして食べていたのだ。

「ここが私のお店?」

「おはようございます!店長ですか?」

「あ。ハイ!名取って言います。宜しくお願いします!」

「若い人ですね。僕は東野って言います。朝番メインなんです!宜しくお願いします」

いかにも好青年といった感じの男性だったが、新しい売り場に清水のオバさん、東野君など、急に頭の中の容量がオーバーしてフリーズ状態になってしまった。

とにかく、一旦心を落ち着けて情報処理をして業務に荷物を片付けた。

つづく

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る