荷物を片付けた私は、案内をしてもらった石塚さんに軽く感謝を伝え、東野君に様々なことを聞いた。
ちなみに、どんぶり勘定の本社体勢をいいことに前任の店長はレジのお金を常々くすねていたらしい。
それを、どうもグルになっていた派遣のオバさんがミスで本部にバラしてしまいクビになったのだそうだ。
「何か、詳しいことは分からないんですが、100万円以上は盗ってだんじゃないですか?」
「ひゃ、百万円!?凄いね…。そりゃぁ、まずいわ」
「でも、退職金ってことになって、おとがめ無しだったそうですね」
「そんなことあり得るの?何か、恐いわ」
「でも、店長まだ、クビになったことを恨んでいるみたいですけど…」
「良く分からないけど、裏がありそうね」
「おかげで、この店、本部から目の敵にされてて、存続が危ぶまれてるらしいんです」
とんでもない会社に入ってしまった、と心から後悔したが、今更逃げることもできないし、この時代、就職先だって高卒の私には難しい。どんなにヤバい会社でもすがって生きるしか無いのだ。
「とにかくさ、売り上げを上げれば大丈夫でしょ」
「そうでしょうけど、前任の店長は本当に強引な売り方をしていたんで、結構売れてたんですよ」
「う…。確かにこの数字は、すごいわね」
売り上げノートを見ると、去年の11月の売り上げは月で500万円を達成している。以前、自分がいた店舗の倍の数字だ。
テナントの場合の、店の売り上げを上げる、ということは前年比より売り上げを上げるということ。そのため、こういったデパートのテナントの店長は次の年が苦しくならないために、敢えて売り上げを落とす日もあるぐらいなのだ。
「ここ最近、売り上げも減ってきてて…。結構キツいんですよ」
「だから、私がここに来たんだ。でも、せっかくだから頑張らなきゃ!東野君お願いね」
「あ、はい!でも、俺就活中なんでそこまで手伝えませんが…」
前途多難だが乗りかかった舟だ。どうにか、売り上げを上げていくしかないと心に誓い開店準備を始めた。