アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 20

古代の人々の心を豊かにした図書館や劇場

~ トルコ エフェソス遺跡 4 ~

地球上に生きる無数の生物の中で、人間は独自の創造・創作行為によって、様々な文明や文化を産み出してきた。自然科学の世界に対する探究や検証が、数々の発明や発見を創出した。文明の利器が私たちの生活を便利で快適にしている。経済活動が盛んになり、物質的に豊かな社会が築かれた。

多彩な機器が身の回りに溢れたとしても、人間の基本的生活は精神的なものによって支えられる。心が豊かになってこそ、質が高く充実した生活が営まれるというものだ。歴史的には無数の創作家たちが、個性的な作品を世に送り出してきた。独創的な作品が、個人の人生観や価値観を変え、私たちの生活をより満ち足りたものにしてくれる。

古代のギリシャやローマの遺跡においても、人間の創作行為の証が残されている。

現在ではトルコの国土となっているエフェソスの遺跡は、上下水道が整備され、港や商店などの商業施設から、行政・集会施設、宗教施設を完備した近代都市だ。この遺跡に暮らした人々は、人間の基本的生活を支える施設では飽き足らず、豊かな心を育むための設備を求めた。

遺跡のほぼ中央には、セルシウス図書館が堂々とした姿で建っている。ファサードは高さ30メートル、幅40メートルくらいあるだろうか。図書館というより神殿を思わせるような荘厳な威容に圧倒される。大理石の円柱で築かれた2階建てのファサードには、知恵、徳、知能、知識の四つの女性像が建っている。下部はコリント式とイオニア式のコンポジット式の柱頭、上部はコリント式の柱頭が、女性像を額縁のように包みこんでいる。

セルシウス図書館は、ローマ帝国においてアジア地区の執政官を務めたセルシウスの死後に、その息子が父に捧げるために135年に建造したものだ。セルシウスの石棺が図書館の中に収められている。当時の図書館には、約12000冊もの蔵書が所蔵されていたという。ベルガマ、アレキサンドリアとともに、世界三大図書館として広く知られていた。

製紙技術、印刷技術の発達した現在では、毎日大量の本が出版されているが、当時の本は紙に手書きで写本されていたのだろう。一冊の本の価値は現在とは比べものにならなかっただろう。当時の人が読んでいた本というのはどんな本だったのだろうか。政治書、歴史書、科学書、詩集、神話といったような分野の書籍が思い浮かぶ。2000年も前から図書館という施設が、存在していたことに驚かされる。古代から人間というのは、先達の知識や経験を習得するという知識欲を備えていたようだ。

図書館は人々の向学心や知識欲を充足するために作られた施設だが、さらに心を豊かにするための施設として劇場が実現されていた。遺跡内の街の中心部と港を結ぶ中継地に、大劇場が今でも残されている。

古代ギリシャ時代にパナユル山の傾斜を利用して創建された後、西暦1~2世紀に修復された。半径15メートル、220度の扇方の平面スペースに、高さ40メートル近くの観客席が絶妙の勾配をもって設置されている。収容人員2万4千人の大劇場は、トルコ最大の規模を誇っていた。舞台の他に近代のオペラ劇場には必ずあるオーケストラ・ピットが設置されており、今でもオペラ劇場として充分な機能を備えている。

当時の上演プログラムは、きっと音楽つきのギリシャ演劇であったのだろう。ギリシャ演劇ではコーラスなども頻繁に使用されていたから、迫力あるコーラスと舞台が繰り広げられたことだろう。2万人を超える人が一堂に集まって音楽や芝居を楽しんでいたのかと思うと身震いする思いだ。

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