アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 23

厳しい陽射しを避けるシェルターと、清涼感漲る沐浴池を備えた寺院

~ インドネシア バリ島 ゴア・ガジャ ~

日本の家屋や建築物は木造で作られることが多い。山の多い島国の日本では、木材が身近な素材となってきたのであろう。木材は軽くて加工がしやすく、木目が加工品に独特の装飾を加えてくれる。木材は、私たち日本人にとっては、なくてはならない素材となっている。

ところが、海外に目を向けてみると、木材よりも石材が建築物などの素材となる場合が多い。古代のギリシャやローマの神殿は真白な大理石を使い、エジプトのピラミッドは無数の石を積み上げた巨大な建造物だ。建築資材としてだけではなく装飾品としても石が材料として使われ、数々の石の彫刻が美術史を築き上げてきた。

石材は重厚で丈夫なため安定感をもっているが、加工しづらく、運搬するときにはその重さが人の手を煩わせる。石の加工や運搬を実現するために、様々な工夫がなされてきたことだろう。

アジア地域でも、インドのアジャンタやエローラには、山肌の岩を巧みに使った巨大な石窟寺院が建造されている。天然の石の柱が、神聖な空間を産み出しているのだ。

インドネシアのバリ島のほぼ中央には、ゴア・ガジャと呼ばれるヒンドゥー教の寺院がある。寺院の中心にある自然の岩は、地球創世以来の位置にあった岩を精巧に彫り込んだアートが施されている。髪をふり乱したよう生物の顔がレリーフされている。巨大な顔は象なのだろうか。見方によっては象に見えなくもないが、この世に生きる生物の顔には見えない。怪物のような姿は、魔除けのための「ランダ」とも「ボーマ」とも言われている。

インドネシア語で、「ゴア」は「洞窟」、「ガジャ」は「象」を意味し、「ゴア・ガジャ」を日本語に置き換えると「象の洞窟」となる。周囲を海に囲まれた面積5000平方キロ余りの小さな島、バリ島には象はいないため、その命名に疑問が投げかけられることもある。島から出たことのない島民が、実際に象が歩いている姿を見ることなどできないのだ。海を越えて入ってくる宗教画や彫刻でしか接することはできない。

岩をくりぬいた大きな口は、訪れた人を丸ごと飲み込んでしまいそうな雰囲気を漂わせている。この口は、洞窟の入口なのだ。アジャンタやエローラほどの規模はもっていないが、ゴア・ガジャは、11世紀頃に建造されたバリ島を代表する石窟寺院なのだ。

怪物の口に吸いこまれるように洞窟の中に足を踏み入れてみると、右奥にヒンドゥー教の神、「ガーネーシャ」や、シヴァの象徴「リンガ」が安置されている。高さ約2メートルの洞窟の中には全部で15の横穴があり、その狭い空間では僧侶が瞑想をしたり、休息をとったりしたと伝えられている。

熱帯の厳しい陽射しを避けるための格好のシェルターだ。真っ暗でひんやりとした空間では、きっと多くの僧侶が静かに悟りを開いたことだろう。今でもここで瞑想をする僧侶がいるのかどうかはわからないが、数多くの観光客が訪れるばかりでなく、蝙蝠が頻繁に出入りしている。

おどろおどろしい雰囲気のある岩の前の広場には、涼しげな水を湛えた沐浴場が設置されている。寺院に訪れた人が身を清める神聖な場所だ。石によって構成された長方形の池の側面に、6体の女神ウィドゥヤダリが一列に並び、両手で大切に持った水瓶から沐浴池に神聖な水を注ぎこんでいる。静かな水面は、太陽の陽射しが降り注ぐ熱帯の敷地に清涼感を漲らせている。

ゴア・ガジャは、天然の岩をくりぬいたアートを中心に、僧侶が瞑想するためのシェルターと、身を清める水を備えた熱帯ならではの施設だ。

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