物語.21

11月を過ぎると午前中だろうが練り総菜店はかなり混む。朝からおでんを購入して、夕方に煮るというスタンスを取るようだ。

今までの真っ黒のおでんつゆに馴れている客達は、その薄い黄金色に輝く映像に興味心身だ。“関西の会社が元締めになったのか?”“つゆが足りなくなったのか?”など、適当なことを様々聞いてきた。

わたしは決して元締めが変わったのでは無く、関西風の味つけを取り入れて種や出汁の旨味を全面に押し出している、と述べて販売したみた。客のほとんどが首を傾げていたが、結果的には少量購入していった。

「いやぁ。すみません。何かフライヤーの動きが悪いのか加熱に時間がかかっちゃって…」

「あ、あぁ。そうなんだ」

開店から1時間ほどすると東野君が戻ってきた。正直、ここまで揚物に時間がかかるなんてあり得ない。絶対にサボっている。初日からナメられているような気がして、相当気持ちが落ち込んだ。

「あれ?汁薄いですね」

「このマニュアルだとさ、濃過ぎて塩っぱ過ぎると思って変えちゃった」

「ちょっと飲んでいいですか?」

東野君は小さなスプーンを取り出してスープを口に含んだ。

「お。これ、旨いっすね!」

「で、でしょ!?」

内心ホッとした。ここでボロクソに文句を言われたら立ち直れなくなってしまう、とかなりドキドキしていたのだ。

「俺、出身が岐阜なんで正直、ここのつゆキツかったんですよ」

「へぇ。確かに関西方面の人にはキツかったかもね」

「立ち食い蕎麦にうどんとか、初めて東京来た時なんかイジメかと思いましたからね」

「ははは…。確かに。でも、あの真っ黒なつゆが好きって人も多いから、何とも言えないよね」

ファッション的な部分で言えば、関西に関東など隔ては無くなってきているものの、味つけに関しては長きに渡って変化が無い。

私も関東の人間だから好きな味の根底は変わらない。近年、関西系の味つけがこちらでも流行しているのだが、結局実家に帰郷した時に母親が作ってくれる、あの濃い味つけの煮付けにはホッとしてしまうのだ。

「おはようございます」

東野君と談笑していると、目の前にほっそりしたロングヘアの女性がこちらを向いて挨拶をしてきた。

「あ、店長ですか?可愛い人でよかった!わたし、坂本由美子です。ループから来ています。宜しくお願いします!」

「あ、こちらこそ。私は名取です。宜しく」

ループとは販売職専門の人材派遣会社だ。

坂本と名乗った女性は私と同じくらいの年だろうか…。人生色々だな、と心で思いながら中途半端な挨拶を交わした。

つづく

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