アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 24

チャオプラヤー川の畔で、夕陽を浴びて幻想的なシルエットを作る暁の寺

~ タイ バンコク ワット・アルン ~

人間は日の出とともに活動を始め、日の入りによって一日の活動を終える。太陽は季節や暦を作り、そして一日の時刻を決める。太陽の動きに従って、人々は生活のリズムを作る。空の彼方に見え隠れする太陽は、人間の生活に不可欠の存在だ。地球を覆う空気に暖を与えてくれる太陽光は、私たちの生活シーンに様々な景色を施してくれる。特に日の出や日の入りのタイミングは、世界の各地に絶景を作り上げる。

日本にも、日の出、日の入りの名所が数多くあるが、タイの首都バンコクでは、ワット・アルンに沈む夕陽が思い出される。

タイ語で「ワット」は「寺」、「アルン」は「暁」の意味をもち、「ワット・アルン」を日本語に直訳すると「暁の寺」となる。暁の光を浴びた姿は寺院の名の通り美しいが、夕陽を浴びた姿は幻想的なシルエットを作る。その景観は、現在の10バーツ硬貨のデザインとなっている。日本を代表する作家の三島由紀夫は、ワット・アルンの光景に触発されて、『豊穣の海』第三巻『暁の寺』を書いた。

ワット・アルンは、バンコクの市街地をゆっくりと流れるチャオプラヤー川の畔に堂々とした姿で聳え立っている。創建についての記録はないが、アユタヤ朝のペートラーチャー王時代の地図の中に、この寺院の所在が記されている。当時はワット・マコークと呼ばれていたが、王朝の変遷に伴って、ワット・マコークノーク、ワット・マコークナイ、ワット・ジェーン、ワット・アルンと何度も名前を変えた。創建当時は小さな寺院であったが、トンブリー朝時代には王室守護寺院となり、現在のチャクリー王朝の時代に入ってさらに形が整えられた。

ワット・アルンを構成する建造物の中で最も特徴的なものは、トウモロコシのような形をした大仏塔だ。チャクリー王朝第3代国王のラーマ3世が、234メートルの台座に75メートルの高さの塔を5年がかりで建造した。大仏塔を中心として、相似形の4基の小仏塔が取り囲み、須弥山を模っている。大仏塔の上部には、ヒンドゥー教に伝わる聖獣で複数の頭を持つ象「アイラーヴァタ」に乗ったインドラ神の像が安置される。

仏塔の表面は無数の陶片で覆われ、陽光を受けてきらきらと輝く。陶片の色彩からは中国美術の影響を窺うことができる。大仏塔と小仏塔には、仏陀の誕生から入滅までの仏像が納められ、仏教の物語が語られる。仏塔を支える基壇には、『ラーマキエン』の物語に登場する鬼やガルーダ、ハヌーマンが施されている。下部にはヒンドゥー教の猿の神、ハヌーマンが同じ姿勢でずらりと並ぶ。その姿は、幾何学的な装飾性をもっているが、両手を上にあげる姿は仏塔の重みを力強く支えているようでリアルに感じられる。思わず労をねぎらう声をかけたくなってしまう。

大仏塔には階段が付設され、仏塔の頂点間近まで登ることができる。ところが、この階段は、急な上に幅が狭い。登るときは足元に注意すれば歩を進めることができるが、降りるときは恐怖感が伴う。仏塔から投げ出されるような感覚に襲われ、どうしても足がすくんでしまう。でも、大仏塔から見えるチャオプラヤー川やバンコク市街の光景は見逃せない景色だ。

世界で活躍するアーティスト達は、各々の感性と表現力を駆使して、美しい絵画や彫刻を創造している。ところが、人の手の及ばぬ自然の太陽や、海、山、川も魅力的な景観を作り上げる。ワット・アルンでは、太陽の光、川の水、そして人間の作った仏塔がコラボして、訪れた人を魅惑する景観を築き上げているのだ。

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