物語.25

どうやら、派遣社員の品川というオバちゃんは週一回、店に入ってくれているらしい。

今日はその日だったらしく、朝から物凄い勢いで嘘か本当か分からない噂話

を連発している。

「店長、右隣のお蕎麦屋さんの噂知っている?」

「い、いや…知らないですけど」

「入り口近くのカツレツ屋の店長とデキてるんだって!だって年15歳近く違うのよ。若い女が好きだからって…、気持ち悪いわよねぇ」

この業界はとにくかく噂話が大好きだ。お客さんの立場だと、結構店員は忙しそうにしているように見えるが、実は暇な時間が多いので、終止こんな下らない話ばかりをしている。

「まずさ、入り口からこの場所って見えづらいでしょ?売れっこないわよね」

今度はデパートの文句。これも定番だ。売り上げが悪かったりする場合、絶対に自分たちの非は認めないのがこの世界の鉄則。とはいえ、デパート側もテナントの努力不足として噛み付いてくるので、結果的に良好な関係は築けていない場所が多いのだ。

「今日はさっぱりですね…。参ったな」

「あら、まだ午前中だもの。夕方よ夕方」

「そうですかね…」

ランチタイムも相変わらずさっぱりだ。この時間はどうにかしておかなければ、売り上げは上がらない。とにかく、誰かに相談でもするしかなさそうだ。ここのスタッフではちょっとダメそうだから…。

午後からは昨日の元気娘の坂本さんも合流し、とにかくくだらない会話で暇を乗り切った。

「売り上げ確認していいかしら」

「あ、大丈夫です」

レジには丁寧に現在までの売り上げを確認できる項目があるのだが、今日は一度も見ていない。タッチパネル式の画面に映し出されるボタンを押すと、長いレシートが無機質な音と共に出てきた。

「3万円…。今日の前年は…10万円。これってマズいわね」

「全然じゃないですか!ヤバ~い」

「まぁ、仕方ないわよ。曜日も去年とは違うし、デパート自体がもうダメよ。今は」

どうも、ここのスタッフは「だから頑張ろう」という発想にはなっていかないらしい。とにかく、この売り上げではよろしくない。

その時、スーツ姿の恰幅の良い男性がこちらに向かって歩いてきた。

「あら、営業部長。お疲れ様」

「あ、あぁ。どう?今日。お、いるね。名取さんでしょ。今時間割ける?」

どうもこの男性は営業の方らしい。私が以前努めていた場所には本部はこなかった。

「はい。大丈夫です」

「じゃ、ちょっと行こうか」どんな説教と現実を知らされるのか不安だが、いかにも中年男性といった風貌のその人に言われるがままについていった。

つづく

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