物語.27


スコーンというのは、何て愛らしいのだろう。

大きすぎず、そして小さすぎず。とにかく、絶妙なのは間違い無い。スコーンを見ていると幸せな気分になってしまう方は少なくないはずだ。そして、それは営業部長も一緒だった。良い年をしてスコーンをトロンとした目で眺めている姿はちょっと不気味だが、まぁ、気持ちが分かるので百歩譲って許容しよう。

「ここのは旨いぞ。なんていっても、このローズヒップのジャムがいいぞ」

「ローズヒップですか…。美味しそう」

確かに色合いも美しい。焼きたてのスコーンに、小さめなスプーンですくったジャムを付けて口に放り込むと…。あぁ、このサクッとした食感に焼き菓子特有の香ばしさが鼻に抜けて行き、気持ちの良い美味しさだ。

「うん、今日も異常なし。コーヒーとの相性も抜群だな」

もう、この人のことを今日からスイーツ部長と呼ぶ事にしよう。その後も話しを聞きだすと、相当詳しくスイーツについて語ってくれた。

「そうだ、12月に入ったら、ちょっと売り場変えてくれ。風水的によくねぇんだ。ここ」

「売り場ですか?」

「そうだよ。ちょっと、新しいスタッフ入れるからな。そいつと2枚看板で頼むよ」

「派遣さんですか?」

「いや、社員だよ。新しく取ったんだけど、なかなか元気があっていいぞ」

「はぁ、女性ですか?」

「あぁ、男性は売り場にはもう置かないってのが社長の考えだ」

確かに男性店員よりも女性の方が映えることは間違いない、とはいえ力仕事や体力的なことを考えれば男性がよかったとも思う。

「まぁ、明日来るから色々教えてやってくれ。元々、えーっと…。どっかで店長やってたんだよ。あれ?忘れちまったな…」

スイーツ部長はかなり適当な人だった。しかも、まさか割り勘だとは思わず衝撃を受けた…。しかも、まだまだ新しい展開がやってくるなんて、ちっとも落ち着かない。

とにかく、私は一つずつ様々な壁を乗り越えて、気持ちよく年を越したいと願うだけだった。

つづく

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