物語.29

ショッピングセンターには必ず、各テナントの店長が集まって会議をしなくてはならない。

その土地土地にやり方はあるのだろうが、ここはかなり意見が飛び交うらしい。何を話すべきなのか、振られた時にどう答えなければいけないのか…。

とにかく、様々なことを考えながら私は別館の3Fの会議室の扉を開けた。

「あの…。佐々木の名取ですが…」

「お疲れ様です。ここに記入して、お茶を一本持って行ってください」

「お茶、貰っていいんですか?」

「そうですよ。みなさんの貴重な時間をお預かりしていおりますので、せめてもの気持ちを…」

統轄グループの受付担当の男性が表情一つ変えず機械的に話している。血が通っていない、とはこの事だな。と思いながら席を探した。

どうやら自由席らしく、後ろで固まるグループに一番前に座っている気合いタップリな人もいる。私は新参者なので、目立ちすぎず、影になりすぎない真ん中の端っこを目指して座った。

「あの…隣良いですか?」

「え、あ、はい!どうぞ」

こんなに可愛い子が店長?と思わせるような、大きな目の顔立ちのハッキリした女性が隣に座ってきた。別に私の家でも椅子でも無いので断る必要な無いのだが、何となく先に座っているものへの敬意の心がこの国ならではの習慣だろう。

「あの、私、2週間前ぐらいにこのデパートに来たんです。全く分からないことばっかで…」

「私も1ヶ月前ですよ、ここに来たの。タイミングがずれてしまって、店長会議は今日が始めてなんです」

「え?そうなんですか?よかった!」

どうやら、隣の女性も新参者だったようだ。名札には“新城”と書かれている。

「しんじょうさん?で良いんですか?あと、どちらのお店なんですか?」

「あ、私はサダハル・アカギです」

「え?凄ーい!」

「そんなこと無いですよ…」

サダハル・アカギと言ったら、パリに本店を持つエクレアが有名な洋菓子屋だ。しかも、日本初出店の六本木店の2号店として二子玉川にやってきている。忙しくてなかなか近寄ることができなかったが、ここで店長と仲良くなっておけば、おこぼれがあるかもしれない。

「私、大好きなんです!今日買って帰りますね!」

「はい!ありがとうございます」

自分の行動にいやらしさも何も感じていなかった分、極悪人だと笑いそうになってしまった。

つづく

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