三島から贈られた指輪

この指輪、映画のタイトルは失念してしまったが葛井欣士郎氏(88歳)が三島由紀夫氏から出演のお礼にと贈られたものである。三島氏が自害する数ヶ月前ということだけは葛井氏から伺っている。

ビロード地ケースの裏側に記された言葉は「私のステージパパ 葛井様 貴下のおかげで芸能界に出ることができました。これはほんのささやかな感謝のしるしです。足の分の十ヶは次の映画の時に」と書かれている。このケースは三島夫人の大切な宝石箱を三島氏が勝手に拝借し、そのケースの中に夜店で買ったと思しき偽指輪を散りばめたらしい。次は足に付ける指輪をと認めてあるが、そこにどんな意味が込められていたのか葛井氏も分からないという。男が男に指輪を進呈する、穿った見方をするというのは野暮というものだ、三島氏にはその匂いが永遠につきまとうが葛井氏は全く無縁の存在である。

葛井氏は三島氏が亡くなる迄の5年間が、一番親交を深めた時期だったと述懐している。

私事で恐縮だが、放送界と関わる前は映画を希望していた、それもATG映画に心酔していたのである。あるきっかけで葛井氏と知己を得、葛井氏の下で実験映画のなんたるかを学んだ。お世話になったと言う言葉だけでは言い尽くせないほどの感謝と畏敬の念を禁じ得ない。

そのような経緯から6年前の2月6日葛井邸で、葛井氏の映画・演劇活動のこれまでを映像記録として残そうと思い立った。件の一葉はその取材後に撮ったものである。師と呼ぶには畏れおおいが、いつか葛井氏を私が生業としている世界で描きたいと強く念じていた。

葛井氏は60年〜80年代という憤怒とうねりの時代の中で、常に映画・演劇界を嚮導(きょうどう)してきた。非商業的な芸術映画や実験的映画を製作する目的で、設立した日本アート・シアター・ギルド(ATG)のプロデューサーとして、既存の映画界とは一線を画す実験映画を確立した人物である。

映像は4時間という長編ドキュメントとなり、DVDに収めることができた。通常は紙の上に文字を埋めるだけの作業で良かったのだが、なんとしても記録に遺しておきたかった、映像に遺しておくことが私の使命だと思ったからである。いつしかこの作品が日の目を見ることができればと願っている。

DVDの中味はこのような構成になっている。

●ATGと一般映画との差異とは

●ATGの企画はどのようにして生まれたか

●アンデレ・キノ×ヌーヴェルヴァーグ…新しい波の予兆

●大島のデビュー

●実験映画

●ATGを語れるものは誰もいない!

●「新宿文化」と言う文化

●ATGの目的とは…

● アルチザンが消えた

● 戦争体験

 

 

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る