香りの音階を操るNezという称号

第3の感性ともいわれる香り、香りの調香は13世紀に始まる、その発端はなめし皮の匂い消しからだった。フランスはグラースの街から香水は発展し、現在、香りを創る調香師は世界で250人ほどいると言われている。彼らはLe Nez(ル・ネ)とよばれる、語源は鼻を意味し、一流の調香師にのみ与えられる称号だ。香水と言えば、シャネルの五番が有名だ、それを調香したのはエルネスト・ボー。

助手が誤って調合したのが不朽の名香を生み出したと言うのだからなんとも皮肉な話しである、五番は実のところ大成功を収めた失敗作だったというわけだ。その失敗作が世の女性を虜にし、かのマリリン・モンローの代名詞にさえなったほどだ。通常、調香師は禁欲的でしかも五感が研ぎ澄まされなければならない存在だが、ボーはそうではなかったらしい。通説だが、彼はヘビースモーカーで試作品を創る過程でもラボで煙をたなびかせていたとか。一概に、喫煙者は嗅覚が劣るというのは俗説に過ぎないということもここでは考えられるのではないだろうか。

Le Nezたちは約3000種の香りを記憶しているという、本当だろうか、信じ難いほどの能力である。世界に250人いるという調香師の中で、天才と呼ばれる調香師が三人いる、調香界のモーツアルトと異名を持つジャック・キャバリエ、史上最も多くの香水を売り上げたソフィア・グロスマン(女性)、シャネルの専属調香師ジャック・ポルジュの三賢者。

実は長年暖めてきた企画を、某テレビ局へ持ち込んだことがあった。上記に挙げた3賢者たちを取材し、どんな手法で香りを創り上げていくのか私自身が大いに興味があったからだ。キャバリエ、グロスマンの取材許可は割とスムーズに行った、しかしシャネル専属調香師ジャック・ポルジュはしぶとく、年々メディアでの露出を嫌う傾向にあった、そのような経緯から許諾まで半年にも及んだのである。

シャネル日本支社の全面支援の下、これでやっと念願の企画が実ると思っていた、だが半年にも及ぶ説得とA4一枚の企画書は見事に打ち砕かれてしまった。相手は、”香りは画が見えない”と一言、これほど時間を掛け企画書を書いた記憶はなかった。映像で香りを表現できないからこそル・ネたちを登場させ、香りがいかにして出来上がるか、その不可視な”香階”を映像で納得させたかったのだ。

存在しない香りのイメージを音符になぞり創る、と言ったのはジャック・ポルジュ。現実化するという才能と忍耐力が不可欠なLe Nez。文学や絵画以上に神秘的なル・ネの世界、生まれ持っての卓越した創造力、たぐい稀な記憶力、並外れた嗅覚を私の”鼻”で嗅いでみたかった。

 

 

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